すぐに円高に振れる展開は予想しづらい
また、昨年に比べれば小さくはなるだろうが、為替レートの影響も無視できない。2022年1月から3月前半ごろまで円の為替レートは1ドル=110円台で推移した。足許、ドル/円は1ドル=130円程度で推移しており、1年前に比べると円安だ。それは前年同月比でみた輸入物価の押し上げ要因になりうる。
今後、連邦準備制度理事会(FRB)は追加の利上げ幅を縮小するものとみられる。それによって、昨年10月中旬のように1ドル=150円に達するような急激な円の下落は想定しづらい。ただ、依然として日米の金利差は大きい。短期的に、為替レートが前年同月の水準を大きく割り込むまで円高に振れる展開は予想しづらい。
さらに、中国などでの新型コロナウイルスの感染再拡大、ウクライナ情勢もわが国の物価を押し上げる要因になりうる。万が一、中国の感染再拡大が勢いづけば、生産活動や物流が混乱し本邦企業のコストプッシュ圧力は高まる恐れがある。年明け以降、中国の景気持ち直し期待の上昇が先行し、原油、銅などの商品市況も上昇している。
賃金体系を見直す動きは広がっているが…
今後、わが国家計の生活負担が追加的に上昇する恐れは高まっている。日々の生活に必要な支出を見直したり、不要不急の外出を減らして節約を心掛けたりする消費者は増えそうだ。
足許、わが国企業の中には、人事制度を国内外で統一したり、実力主義を徹底したりすることによって人々に成長を促し、組織の成長力を引き上げようとする企業が出始めた。政府からの賃上げ要請も、そうした取り組みの一つの要因になっている。物価への抵抗力をつけるために、それは重要なことだ。
ただ、経済全体でみると、年功序列や終身雇用といった雇用慣行は続いている。世界的な景気後退の懸念が高まるにつれて、賃上げの機運は弱まる恐れがある。特に、事業環境の不安定感が相対的に高い中小企業にとって、賃上げのむつかしさは増すだろう。わが国全体で持続的に賃金が上昇する展開は想定しづらい。