嫌なことや苦しい時ほど、周囲から支配されていた
その後、沖縄で出会った後藤健治医師(沖縄リハビリテーションセンター病院)により南雲さんは重度の発達障害であることが判明する。大まかにいえば「どん底だと本来の発達障害による力が全開になり、会社が安定すると組織や集団に合わせすぎて適応障害になる」という説明を受けた。
南雲さんがこう補足する。
「世の中はまんべんなく、全体を学び、努力をしなさいと伝えます。私の子どもの頃からを振り返れば、嫌なことや苦しい時ほど周囲から支配され、うつや適応障害になっていることがわかります」
取材で驚いたことがある。南雲さんが幼少期に悩んだ「どもり(吃音)」は、成長の段階で目立たなくなるが、それは治ったのではなく、重症化しているのだという。
「なぜ目立たなくなるかというと、頭の中で言葉を置き換えているんです。この文章ではここがつまるというのが、話をしながらすぐわかる。だから文章でもそうですけど、周りくどく言ったり、同じような話をぐるぐるしてしまう人は、本当は伝えたいことがあって、その単語が出ないと先読みし、回避をしながら言葉を置き換えているんです」
「コンサータ」の服薬で、驚くほどの効果があった
「思考がループする」と前述したが、南雲さんは今でも、脳内で映像や言葉、出来事がループするという。それを止めるには、「コンサータ」という薬を服用するしかない。コンサータは、発達障害の一つADHD(注意欠陥・多動性障害)の治療薬で、脳内の神経伝達物質の機能を改善する。劇的な効果を発揮することもあるが、さまざまな副作用が起きるリスクも高く、処方には注意が必要とされている。
「これを初めて服薬した時、ノイズが消えて、普通の人はこんなに頭の中が静かなんだと驚きました。社長として銀行など事務処理をする時は服薬するとめちゃくちゃはかどります。一方でこれを飲むとイメージが湧かず、音楽を作りたいという気持ちが失せる。ノイズがあるからクリエイターの仕事ができることにも気づきました。だから今はシーンに応じて使い分けて服薬します」
ほかにも一日に2回、「虚脱」の症状が起きる。コロナの後遺症の一つとして「ブレインフォグ(脳の霧)」が知られたが、それと似たような感じで集中力の低下やひどい倦怠感が、発作のように襲ってくるのだという。だからこの度の取材にも、南雲さんは起床時間を調整し、コンサータを服用した上で応じてくれた。