「私の自伝かと思うくらい重なることばかり」

思いあまって良子さんは心療内科を受診した。軽いうつ状態、ノイローゼ気味などと診断され、服薬もしたが、ちっとも良くならない。

しおん君もまたコミュニケーションが苦手だった。大人数の保育園にはなじめそうになく、少人数のフリースクールに入所したという。こだわりが強く、思い通りにいかないと癇癪を起こす。

「4歳差で下の子が生まれたのですが、しおんは癇癪、下の子は“多動”(落ち着きがなく動き回る)で脱走犯。施設から『来るのは週2回にしてください』と言われました」

しおん君が4歳になる頃、良子さんは書店でふと発達障害児を育てた母親が記した書籍を手に取ったという。すると「私の自伝かと思うくらい重なることばかり」だったそうだ。また同じ頃、しおん君が通っていたフリースクールから「発達障害ではないか」と指摘された。さらに良子さんの夫から、良子さん自身の発達障害の可能性も、言及された。

インタビューを受ける発達障害当事者の林良子さん。
撮影=笹井恵里子
インタビューを受ける発達障害当事者の林良子さん。

初めて自分のことをわかってもらえたと感じた

「それで沖縄で発達障害を診てくれる先生を調べ、精神科医の後藤健治先生(沖縄リハビリテーションセンター病院)の診察を受けることになりました。知能検査をすると、普通の人ならなだらかなグラフになるところが、私の場合は発達障害にみられる典型的な凸凹。そこで初めて診断がつきました。後藤先生は診察で私の話をじっくり聞いてくれて、音が怖いことやコミュニケーションの問題をスラスラ理解してくれて。『よく今まで生きてこられたね』と声をかけられ、初めて自分のことをわかってもらえたと感じました。当時は、それくらい生きることがしんどかったんです」

良子さんは漢方薬を処方された。二つの漢方薬を組み合わせる「神田橋処方」という方法で、発達障害のフラッシュバックなどに効果があるとされている。良子さんの病状にもテキメンに効いた。

「服薬しだしてから気持ちが落ち着くようになりましたし、フラッシュバックがすごく減りました。5年経った今でもその漢方を飲んでいます。絶対に服薬しないとダメなわけではありませんが、飲まないと完璧主義なところが強くなったり、フラッシュバックで気持ちが落ち込んで不安定になったりすることがあるので……」

一方、良子さんの診断からしばらくして、しおん君や下の子も、後藤医師の診察を受け、知能検査などを経て発達障害の診断が下された。