実は嫌だと感じているのに、その場では笑ってしまう

しおん君は小学校にあがってからも、まだ周囲になじめない状態が続いていた。

「パニックになりやすいんですね。大きい声を出す子がいると、耳をふさいだり。癇癪を起こすと気落ちを落ち着かせるのに時間がかかる。学校の先生からは『気持ちが落ち着くまでみんなから離れた廊下で座ってもらってもいいですか』など、いろいろ配慮してもらいました。『大変な子だから、あっちに行け』という感じではなくて、どうやったらしおんの気持ちが落ち着くのか、いつも考えてくれたのでありがたかったです」

小学3年生の時は、こんなこともあった。友達にからかわれ、トイレに閉じ込められたのだ。

発達障害の児童によくみられるのは「自分の気持ちに気付きにくい」ことだ。実は嫌だと感じているのに、自分でもそれがわからず、その場では笑ってしまう。だから周囲は本人が嫌がっていることに気付きにくい。この時も状況を聞いて「周囲は遊びの延長線上だったのではないか」と良子さんは考えた。

「本当は、いやだった!」と、家で感情を爆発させるしおん君に対し、良子さんは

「『やめて』って言いながら、しおんは笑っていなかった?」と問いかけた。

しおん君が描いている絵。「しおんがかいた」と書かれている。
撮影=笹井恵里子
しおん君が描いている絵。「しおんがかいた」と書かれている。

本人が原因に気付けるように、と対応している

一方で友人に対しては、「冗談のつもりだったかもしれないけど、しおんはとても傷ついている」と、彼の気持ちを代弁していったという。今では周囲のほうがしおん君の特性を理解し、「近くで大きな声を出さない」「本人が何かに没頭して気付きにくい時は、こちらから『片付けの時間だよ』と声をかけてあげる」など、対応を熟知しているようだ。

だが友人とのトラブルはゼロにはならない。

「自分では気付いていないだけで、しおんが相手にひどいことや嫌なことを言っている時もあるのです。ですから、トラブルが起きるたびに状況を確認するようにして、本人が原因に気付けるように、と対応しています。今もパニックや癇癪はありますが、頻度はかなり減りました」

問題はそれだけではない。

一昨年、なんと良子さんの夫までも発達障害であることが判明したという。