252人の自由応募採用枠に対して「約1万人が応募する」(豊田氏)という高倍率だが、実は内定の辞退者がそれなりにいたそうだ。

そこで、昨年秋に辞退者を対象に、その理由について調査を行った。すると、「富士通に入ると、自分が希望する職種に就けないと思えるから」という回答が多かった。

豊田氏は「意外でした。『第一志望ではないから』ならば理解できるのですが、どうもそうではない。文系学生が営業をやりたくともSEに配属される、あるいは理系学生がSEを希望しても開発あるいは営業に配属されるのでは、という心配から辞退していたのです。それならばと、職種志向が明確な学生向けにつくったのがWishコースです」と説明する。

希望と配属のミスマッチを恐れているのは、営業やSEといった間口の広い職種を希望している学生だけでもない。最近は司法試験や会計士試験に合格した学生も応募してくる。司法制度改革により、この10年間で法曹人口は1.6倍となり弁護士は急増。富士通のような大手企業の法務部門への配属を希望する学生が、増えているそうだ。こうした高度な専門性を持つ学生を確保したい狙いもある。

富士通はこれまで、各職種の採用計画を積み上げて予定総数を540人としていた。つまり、540人の内訳は最初から決まっていた。

自由応募の場合、書類選考の後、一次面接、グループワーク、二次面接、最終面接を経て内々定を出すプロセスである(ちなみに現在は、二次面接をWishコースでは各志望部門が、Openコースでは人事部が行っている)。

面接時間は、1回あたり20~30分。当然ながら、面接官は従来から学生に志望動機のほかに希望職種を聞いていた。職種別の内々定の進捗を把握しながら、合否を決めていたのである。このため、「内々定を出した時点で、学生はほとんど希望通りの職種に就けた」(豊田氏)。しかし、学生側にはこうした実態は伝わらない。また、面接官が内々定の数値から、例えば「営業なら入れる」と示唆することもなかった。

これを、最初から希望に即した職種別採用の新設という形で、キャリア意識の高い学生側に一歩踏み込んだのだ。