温厚で優しい源実朝はもうじき死んでしまう
NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』第34回「理想の結婚」(9月4日放送)から、成人となった源実朝が登場した。演じるのは、俳優の柿澤勇人さんである。
鎌倉幕府の2代将軍・源頼家(演・金子大地さん)は、粗野で、御家人の妻を奪い取るなど荒々しい行動が目立ち、最後には鎌倉を追放され、伊豆修善寺で北条の手の者により暗殺される。
一方、その弟・実朝は、兄とは正反対で、おとなしく、気品がある感じに描かれている。頼家が「動」なら、実朝は「静」といった感じであろうか。
今回のドラマにおいては、御家人たちから武芸の稽古をつけられていたが、全く歯が立たず、文弱な印象を残したが、今後、実朝がどのように、3代目の鎌倉殿として成長していくかが楽しみである。和田義盛をはじめとする有力御家人との猪鍋をつつきながらの交流も今回、見どころであった。
義盛は、実朝が将軍として在職している建暦3年(1213)に、北条氏により討たれてしまう(和田合戦)。
実朝と義盛たちとの和気藹々としたシーンが描かれれば描かれるだけ、義盛討ち死にの悲劇性は高まるであろう。さらに、そんな実朝自身も、残念ながら亡くなる時がやって来るのだ。それも畳の上での死ではなく、暗殺という悲劇によって。温厚で優しい実朝が死ぬ時、「実朝ロス」は起こるであろうか。
歴史学者が考える実朝殺害事件の黒幕
幕府の3代将軍・実朝が鎌倉の鶴岡八幡宮で殺害されたのは、建保7年1月27日(1219年2月13日)の夜ことであった。享年28。
実朝を殺害したのは、鶴岡八幡宮寺別当の公暁。2代将軍・頼家の子であり、実朝(頼家の弟)とは甥・叔父の関係にあたる。
公暁の父・頼家は、実朝を擁する鎌倉北条氏の手によって、権力の座から引きずり下ろされ、最後には殺害された。これを恨みに思っていた公暁が、実朝を親の仇として殺害したとされている。
鎌倉時代初期の史論書『愚管抄』には殺害の際に「親の仇はこのように討つのだ」、『吾妻鏡』(鎌倉時代後期編纂の歴史書)には「父の敵を討つ」との公暁の「肉声」が記されている。
私は公暁には親の仇を討つ以外にも目的があったと思っているが、それについては後述するとして、実朝暗殺には黒幕、つまり「真犯人」がいるとこれまで主張されてきた。
歴史学者から最も疑われてきたのが、北条義時だ。北条氏が実権を握りたいがために、公暁を操って実朝を殺害させたという。