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東京電力次期社長 廣瀬直己(ひろせ・なおみ)
1953年、東京都生まれ。76年一橋大学卒業後、東京電力入社。83年イェール大学経営大学院修了。2010年常務、11年福島原子力被災者支援対策本部副本部長。12年6月社長就任予定。


 

6月下旬の株主総会後に今年も多くの企業で新社長が誕生するが、巡り合わせとはいえ、廣瀬直己氏ほど、貧乏くじを引いた社長はいないだろう。

原発停止に伴う火力発電所の燃料費増大などで最終損益がなお8000億円近い巨額赤字を抱えるうえに、福島第一原発事故の被災者への賠償と廃炉や除染の費用などが数十兆円規模に膨らむ可能性がある。綱渡り経営を続ける東電を倒産させないため、政府は原子力損害賠償支援機構を通じて1兆円を出資。会長ポストに下河辺和彦運営委員長を送り込むとともに、議決権の過半数を握ることで「実質国有化」する。

新体制では「委員会設置会社」に移行して、現在16人の取締役を11人に減らし、有力財界人など7人を社外から迎え、生え抜きの新社長らの監視を強化する。しかも、NHK経営委員長の數土文夫・JFEホールディングス相談役が社外取締役に内定したことで「報道の中立性」の観点から兼職を批判されたため、結局、NHKから身を引いて東電に専念することになったが、出鼻をくじかれた格好だ。

廣瀬氏は社長内定の記者会見で「変えるべき点は少なくない。一日も早く東電も少しは変わってきたと思ってもらえるように先頭に立って頑張りたい」と、抱負を述べていた。だが、廣瀬氏が担当役員として陣頭指揮してきた被害者への賠償交渉は一刻の猶予も許されない。責任の重さは増すばかりだ。さらに、国民から不安や反発の声が上がっている柏崎刈羽原発の再稼働問題、経営合理化とともに赤字幅を圧縮するための家庭向け料金値上げの実施も見通せない。就任前から暗雲が立ち込める中で、人事権も決定権もない孤立無援の“名ばかり社長”のかじ取りは多難である。

(写真=PANA)