子どもたちを習近平の思想一色で染め上げる
アメリカやイギリスなどと同様、中国も毎年9月に入学の季節を迎える。
2020年初頭から世界に拡大した新型コロナウイルスは、中国でも小中高等学校や大学の授業の多くをオンラインなどリモート学習に替えたが、感染拡大に歯止めが見られるようになった2021年8月、ちょっとした異変が起きた。
日本の文部科学省に当たる中国教育部が、入学や新学期を前に、
「全国の学校で、習近平総書記の中国共産党100周年式典での重要講話を真摯に学習させる教材作りの国家事業を推し進めていく」
「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想を深く学習し、貫徹していくことは、全党全国の主要な政治任務だ」
と発表したのである。
これは、中国の全ての学校を、習近平の思想一色で染め上げると宣言したに等しい。詳しくは次で述べるが、習近平が語ったことや実行したことを教科書として編纂し、児童や生徒、それに大学生にまで必修科目として学習させるということだ。
毛沢東時代の個人崇拝の悪癖が復活した
個人の思想が教材に反映されるのは、今なお中華人民共和国建国の英雄と評される初代の最高指導者、毛沢東以来である。
中国の歴史をひもとけば、最高指導者ごとに5つの世代に分けることができる。
第1世代が毛沢東時代、第2世代が鄧小平時代、第3世代が江沢民時代、そして第4世代が胡錦濤時代で、現在の習近平時代は第5世代である。
中国では、鄧小平時代以降、毛沢東時代の1966年から10年間にわたり繰り広げられた文化大革命への反省から、個人崇拝の悪癖を排除してきたが、教科書の一件は、習近平もまた毛沢東と同様、崇拝の対象になったことを意味している。
同時期に中国共産党の中央宣伝部が公表した「中国共産党の歴史的使命と行動価値」と題する文書では、個人崇拝について否定し、「習近平による強権体制」と批判されないよう配慮をにじませながらも、習近平を大国の舵取りを担う存在として毛沢東と同等の扱いで紹介している。この点も注目すべきである。