「女性が生涯で産める子供の数はせいぜい10人ほど。しかも出産するためには、卵子が受精してから十月十日(とつきとおか)の間、胎盤を通して栄養を与え続け、生まれてからも授乳しながらつきっきりで自分のエネルギーを子供に費やします。その点、男性が精子を放出するのはほんの一瞬。生まれた子供が確実に自分の子供かどうかもわからないわけですから、男性は女性に比べて、どうしても子供への関心が低くなってしまうわけです」

たしかに、動物行動学的視点からみると、女親が子供を大事に育て上げようとする理由は明快で、その後とくに不幸な出来事がなければ、遺伝子は次世代に残っていくことは確実だ。では男性は、自分の遺伝子を確実に残すためにどうするのか――。

「できるだけ多くの女性との間に子供をつくって、遺伝子を残そうとします。子供の数が多ければ多いほど、自分の遺伝子をたくさん残すことができますからね。だからといって、浮気を肯定しているわけではありませんよ」と先生は釘を刺す。

「現在は制度として一夫一婦制が確立されています。本能の赴くままに行動していたら不幸になってしまうため、制度に合わせて生きる戦略を変えていく必要があります。人間は幸せを求めて生きる理性的な動物でもありますから、自分の無意識レベルで起こる衝動をコントロールすることは、意識していればできること」

そのためにも、自分の無意識の行動は、「遺伝子が自ら生き残っていくために脳を操作している可能性がある」ことを知っておくことが必要だ。その視点から子が受験期の妻や夫の行動を観察すると、妙に納得できて、心にも余裕をもって対処することができる。

夫は、浮気の衝動が起こったときも、「これは動物学的遺伝子によって脳が操作されている証拠だ」と冷静にとらえられれば、家族を不幸にするような行動は抑えられるに違いない。

そして妻も、夫が子供の受験を他人事と思わないよう、夫の気持ちを受験に向かわせる工夫が必要だ。

例えば、「お父さん、勉強教えて」と子供から言わせる、妻から受験期の父の役割をあらかじめお願いするなど、手を替え品を替え、夫に適した受験へのかかわり方を編み出してみてはいかがだろう。

(小林朋道=教える人)