行きつけの美容院をなかなか変えられない

実はこうした人間の心理を表しているのが「現状維持バイアス」という概念です。「現状維持バイアス」とは、変えた方が良いとわかっていてもなかなか現状を変えることができない心理のことです。何かを変えるということは今までのものを捨てて新しいものを得る行為です。つまり変えることによって新しく得るものと、それまでにあったものを失うことを比べてどちらが良いかを判断しなければなりません。

新しいものがそれまでに比べて良いということが確実であればいいですが、実際にやってみないことには何とも言えない場合も多くあります。もし変えた結果が悪ければ大いに後悔することになってしまいます。そしてこの心理は日常生活や普段の仕事の中において意思決定が必要となるあらゆる場面で出てきます。

例えば何らかの理由で行きつけの美容院を変更するということはあると思います。でも行きつけの美容院を変えるというのはなかなか難しいという人が多いと思います。なぜなら、変えたお店が今までよりも確実に上手で、しかも自分のセンスに合っていればいいものの、それは変えてみないとわからない部分が大きいからです。したがって変えることを躊躇するということになりがちです。

モダンなヘアサロン
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効率的なシステムを導入しない上司の心理

これは仕事の場面でも起こります。あなたが業務の効率化のために新しいシステムを導入したいと考えたとします。そしてそれを上司に提案してもなかなかOKがもらえないということはよくあります。この場合、上司は自分の保身のために現状維持バイアスにかかっている可能性があります。「変えてもいいけど、コストをかけてもし変えても効率化が進まないという事態になれば自分の責任だ」「変えなければ、良くなることはないけど、少なくともこれよりも悪くなることはない」「だったら変えない方が無難だ」という心理が働くからです。

こういう上司を「ばかげている」と思うのは簡単ですが、美容院を変える時も同じような心理が働いているのかもしれません。「変えても良いけど、もし変えて前より変になったら最悪!」「今のままだったら不満はあるけど、それほど変になることはないわよね」「だったら、まだしばらく様子を見ようかしら」というのと同じことですね。特に美容院を変えるというのは自分の容姿に関わることですから、心理的に与える影響は何より大きいと言わざるを得ません。いくら友達の勧めでも、いくら雑誌で評判のカリスマ美容師がいるところでも自分で試してみないことには確実とは言い切れません。だとすれば慎重になるのもやむを得ないことでしょう。