歌うこととは、語ることである
高倉健はプロの歌手でもある。若い頃は映画館の舞台で歌を披露したこともあるし、キャバレーで歌ったこともある。映画『ホタル』ではハーモニカ演奏もやった。
そんな彼は歌うことについて、養女の小田貴月さんにこう言っていた。
「映画で2時間かけて伝える思いを、歌は3分で感じさせるってすごいよね。僕は、決して上手くはないけど、ささやきでも、語りになってもいいと思ってる。ある思いが伝えられればって。それが役者の役目なんじゃないか」
映画だけでなく、歌曲、音楽に敬意を払っていたのだろう。
そして、自宅では自分が好きな曲をかけて聴いていた。たとえば、次のような曲で、いずれも聴いていると頭の中に映像が浮かんでくる。旋律、リズムをシーンに変換しながら聴いていたのだろう。
リサ・ジェラルド(『グラディエーター』サントラ)
リンダ・ロンシュタット「ブルーバイユー」
カルロス・バレーラ「ウナ・パラブラ」(『マイ・ボディガード』サントラ)
ニーナ・シモン「シナーマン」
スタンリー・マイヤーズ「カヴァティーナ」
サミー・デイビスJr.「ミスター・ボージャングルス」
北島三郎「風雪ながれ旅」 etc.
「ちょっと聴くともっと聴きたくなる」
彼の歌のなかで、もっとも知られている曲は1965年の映画『網走番外地』の主題歌ではないだろうか。曲名を知らなくとも、歌が流れれば「ああ、これか」と気づく人は多いだろう。
さて、「網走番外地」こそ入っていないが、2022年に出たCD『風の手紙~1975-1983 CANYON RECORDS YEARS~』(ポニーキャニオン)には17曲もの彼のベストナンバーが収録されている。「時代おくれの酒場」(東宝映画『居酒屋兆治』主題歌)、「はぐれ旅」、「言葉はいらない」など彼ならではの曲ばかりだ。
楽曲解説にはこうある。
高倉健の歌は「ちょっと聴くともっと聴きたくなる」もので、「高倉健の歌の世界にひたる歓びを(再)発見される」と書いてある。要するに、ファンにとっては映画の演技もさることながら歌には歌の魅力があるということだろう。
わたし自身は高倉さんのCDを通して聴いたのは初めてだった。そして、どう思ったか。
それにはこれまでの音楽の好みを知っておいていただかなくてはならないだろう。わたし(1957年生まれ)はアイドル、青春歌謡から軍歌、洋楽までさまざまな音楽を聴いて育った。はっきり言えば、音楽の好みはバラバラで節操がない。よくいえば多様な趣味といえる。
たとえば……。