解雇しやすくしても日本の生産性は上がらない

「どんな仕事をするか明確にせずに雇われた」ということは裏を返せば、「仕事に対して明確に“使えない”という評価ができない」ということでもある。実はこれが日本の大企業正社員を、「世界で一番クビにしにくい労働者」にしている最大の原因だ。

こういう構造的な問題なので、もし一部の人が主張するように、日本をアメリカのように「クビにしやすい社会」にしたところで、日本企業の生産性はほとんど上がらない。

Twitter社からクビを宣告された人の多くは、ジョブ型雇用なので、プログラマーであれ広報マンであれ、「Twitterでこの仕事をしてきました」と胸を張って言える。だから、これから成長していく次世代のGAFAに転職をすれば、その経験が何かしらの形で生かせるし、転職先にとってもメリットがある。生産性の高い人材が移動をして、新たな職場で生産性の高い仕事ができる。

中小企業で横行する「ソフトなクビ切り」

しかし、日本の大企業の正社員は残念ながらそうならない。入社後、製造現場を2年経験して、地方支社を10年回りまして、本社に戻ってからは営業を5年、その後に経営企画室に――というジェネラリストのキャリアは、その組織内の出世コースであることが多く、他社、特に急成長しているようなベンチャーではほとんど役に立たない。つまり、メンバーシップ型雇用の流動性を高めたところで、大企業をクビになった人たちが転職先で、前職ほど生産性の高い労働者にならない可能性が高いのだ。

しかも、もっと言えば、解雇の規制緩和をして、「使えない社員」を労働市場に放出する大企業は、日本企業の中でわずか0.3%に過ぎない。日本企業の99.7%は中小企業で、労働者の7割が働いている。こういう規模の会社はジェネラリスト採用なんてできる余裕もなく、「ジョブ型雇用」が一般的だ。

だから、アメリカのように、ある日、社長から「うちもそろそろ厳しいから」なんて言われて、自主的に退職するように促される「ソフトなクビ切り」が横行している。つまり、解雇の規制緩和をしても、日本の労働者の7割にはそれほど影響がないのだ。

だが、こういう現実や客観的なデータを無視するような形で、「日本もアメリカのように使えない社員をクビにすれば生産性が上がっていく」という珍妙な主張が一定の支持を得ている。なぜこうなってしまうのか。