私自身古い人間ですから、こういうことを自分でも考え、社員にも言ってきたと思うのですけれども、これは特に大事なことだと思います。人間の考え方というものは、どんどん変化をしていきます。「京セラフィロソフィ」の中で、過去に人生の結果という方程式の話をしました。「京セラフィロソフィ」の根幹になる、もっとも基軸となるものです。あの中で私は、その人が持つ考え方、哲学が一番大事だと強調していますが、その「考え方」というものは、実は変化をしていくのです。Aという人はこういう考え方だと、決まったものではないのです。

人生の結果は「考え方×熱意×能力」という方程式になると言っていますが、ある時期にはその人はすばらしい考え方をしていた。そのために事業もうまくいき、人生も順調にいったけれども、それがうまくいくに従って、その人の考え方が変わっていく。そのために、せっかく成功させた事業を失敗させ、つぶしてしまう。そういうこともあり得るのです。つまり、経営者が持つ考え方が変化していき、それに連れて経営状態も変わっていくわけです。

「倹約を旨とすべし」

例えば、私が京セラという会社を始めた40年前はお金もなかったし何もありませんでしたから、「倹約を旨とする」というフィロソフィをつくり、それを従業員に言っていたのは当然かもしれませんが、では現在はどうなのか。連結決算で7000億、8000億円という規模になり、700億、800億円という利益が出ることになった今でも、「倹約を旨とすべし」と言っているのかどうか。そしてそれがまだ実行されているのか。

私は社員の人たちに、よく「現在は過去に我々が考え、行ってきたことの結果であり、未来は今からの我々の考え方、努力で決まる」と言ってきました。現在の結果は、過去にしたことがもたらしたものであって、今から私どもがやっていくことが未来を決めていくということなのです。そういう意味でも、「倹約を旨とする」ということは非常に地味で、みみっちい感じがしますけれども、これは中小零細で苦しかったときにだけ旨としていたのではなくて、何千億円という世界的企業になっても変わってはいけない。またその考え方も、環境によって変わっていくものではない。そういうふうに思います。