女子アスリートに対する盗撮行為や性的な嫌がらせが、共同通信の報道でようやく問題視されるようになった。共同通信の鎌田理沙記者は「陸上競技をしているだけで、性的な関心の対象にされてしまう。たとえば全国大会の中継サイトには大量の卑猥なコメントが寄せられたこともあった。そうした被害をみて、陸上競技を避ける人も出てきている」という――。(第1回)

※本稿は、共同通信運動部編『アスリート盗撮』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

陸上・日本選手権混成競技の会場で、スタンドに設置された盗撮禁止を呼びかける掲示。アスリートを性的な目的で撮影した画像が拡散される被害が問題となり、JOCと日本スポーツ協会は、盗撮防止などに取り組んでいる=2021年6月12日、長野市営陸上競技場
写真=時事通信フォト
陸上・日本選手権混成競技の会場で、スタンドに設置された盗撮禁止を呼びかける掲示。アスリートを性的な目的で撮影した画像が拡散される被害が問題となり、JOCと日本スポーツ協会は、盗撮防止などに取り組んでいる=2021年6月12日、長野市営陸上競技場

女子選手の盗撮被害を受けて動き出したJOC

女子選手に対する盗撮や、SNSにみだらな文章や画像を拡散されたりする被害拡大をまとめた共同通信の一報から、世の中は大きく動き出した。

2020年10月13日、当時の橋本聖子五輪相はスピードスケートと自転車で五輪に7度出場したメダリストの立場として「撮影行為で心を傷つけられた選手もいると思う。安心して競技に打ち込める環境作りが一番重要。関係者間で検討が進められ、何よりも選手に寄り添いながらしっかりと防止につなげていっていただければと思っている」と競技横断的な対策に乗り出すことを歓迎した。

日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長は各競技団体から実態や意見を聞く方針を明らかにし、日本スポーツ協会や全国高等学校体育連盟(全国高体連)とも幅広く協力していく考えを示した。それから3日後の16日、スポーツ庁の室伏広治長官が、陸上の全国中学生大会の視察で訪れた横浜市の日産スタジアムで取材に応じた。

「鉄人」と呼ばれる陸上男子ハンマー投げの五輪金メダリストは約20年前から続くとされる根深い問題に「(被害があると)認識していた」と言及。「選手を守っていくことが大切。しっかりスポーツ庁としても取り組んでいきたい」と鋭いまなざしで決意を表明した。

JOCや日本スポーツ協会など7団体が被害撲滅に取り組む共同声明を発表したのは、報道が世の中に明るみに出てからちょうど1カ月後の11月13日。それにしても驚くばかりのスピード感だった。JOCなどは今回の問題を「アスリートへの写真・動画による性的ハラスメント」と位置付け、声明では盗撮や写真・動画の悪用、悪質なSNS(交流サイト)投稿を「卑劣な行為」と厳しく非難し、犯罪として処罰される可能性があると警告。誰もが安心してスポーツに取り組める環境を守るため、理解と協力を呼び掛けた。

作成されたポスターは「盗撮」「悪用」「悪質」の言葉に赤丸を付けて強調し、日本語と英語でメッセージとして「安全な環境を、すべてのスポーツ愛好者のために」と添えられた。