競争馬のウンコはどこへ行くのか
年末のイベントの一つに、日本中央競馬会(JRA)が主催する華やかなレース、「有馬記念」があります。
出走馬の毎日のウンコはどこへ行っているのだろう、などと考えながらこの日のレースを見た人はおそらく私以外にはいなかったと思いますが、馬術部の馬糞問題を聞いたばかりだったので、その問いが頭から離れませんでした。
では、あらためて、サラブレッドのウンコは、いったいどこへ行っているのでしょうか。
その謎を解くために、有馬記念を見届けた翌日、私は3人の学生(Aさん、馬術部の馬糞係の学生、この取り組みを取材したいという学生)と茨城県にある「つくば牡丹園」に足を運びました。
馬糞堆肥についての情報を集めていたところ、その実践者が同園にいるという情報にたどり着いたからです。その人とは、競走馬として育成されているサラブレッドの馬糞を堆肥にして農業利用につなげている関浩一さんです。
関さんは土づくりの技に長たけた土職人で、「つくば牡丹園」の園長でもあります。最近、これまでの花栽培の実践をもとに博士論文をまとめたばかりで、牡丹や芍薬についての論文を多数発表されています。
開花時期を迎える春先まで、冬の間は休園している園の事務所に到着すると、関さんは自家製の温かい芍薬茶を出してくれました。園内の芍薬は無農薬有機栽培であるため、お茶に加工することができるのだそうです。
つくば牡丹園ではすべて自家製の堆肥を用いて土づくりを行っています。藁、落ち葉、雑草、藻類などをブレンドして発酵させた堆肥は、園の植物を健康に保つためには欠かせないといいます。
その関さんが4年前から取り組んでいるのが、茨城県稲敷郡美浦村にある、日本中央競馬会の東日本における調教拠点「美浦トレーニング・センター」から出る「馬糞」を堆肥にして農地還元するという仕組みづくりです。
なぜサラブレッドの馬糞がいいのか
サラブレッドはドーピング検査に備えて医薬品使用量が非常に少ないため、馬糞は質の良い有機物になります。
トレーニング・センターには約2000頭、またその近隣の育成牧場にも約2000頭もの馬が飼育されています。馬牧場にとっては、毎日大量に出る馬糞の処理が課題となり、農家は馬糞を入手してもすぐにはうまく活用することができません。
だからといって馬糞を野ざらしにしておくと、地中に成分が大量に流れ込み、水質汚染の原因になる場合もあります。そうした問題を解決する方法はないかと美浦の馬牧場協議会から相談がありました。
そこで、「馬糞」を短期間で堆肥化、活用するサイクルを提案し、茨城大学農学部と、つくば牡丹園の運営主体である株式会社リーフの技術・事業力を融合し、馬糞の堆肥化を実現させました。
2019年からは堆肥の商品化、ホームセンターなどでの販売開始、堆肥ハウスの増設、成果・成分分析も実施しています。その肥料には「サラブレッドみほ」という魅力的な名前がつけられ、販売されるまでになっています。
最初の問いであった「サラブレッドのウンコはどこへ行く?」に対する答えとして、堆肥になって牡丹園の牡丹や芍薬を咲かせる養分になる、そして、作物を作る農地にも還元されている、という事実にたどり着くことができました。