「なるべく早く試合が終わってほしい」

この日の試合展開は、先攻のロッテが初回に3点を先制。西武が4回と5回に1点ずつ取って追い上げる展開となった。7回終了と同時に「パターン」はいつでも発動できるように準備が進められ、脇田さんの判断待ちとなる。

シーソーゲームにみなハラハラ
筆者撮影
シーソーゲームにみなハラハラ

8回裏、ついに西武が3-3の同点に追いついた。さらに2死2塁で打者は西武の4番、山川選手。テレビを見ていた駅員から「逆転してくれよ」と声が上がる。熱いファンの声というよりは、むしろ冷静な口調。リードして9回表を抑えればコールドで9回裏がなくなるからだ。

時間帯が遅くなるほど遠方の客は帰りにくくなる。「なるべく早く終わってほしい」は鉄道員の本音なのだ。

だが、願い虚しく同点のままチェンジ。この時点で21時を過ぎている。試合時間も押し気味。焦りが募る。さらに9回も両チーム得点なく、試合は延長戦に突入した。ファンとしてはエキサイティングな攻防だが、駅員たちからは「あー」とため息も。

「こればかりは私たちでどうしようもない。他力本願ですからね」と脇田さんも渋い顔。テレビ画面をみながら、懐中時計を何度も出して時刻を確かめる。

「パターン6」発動

「まだ大丈夫ですが、あまり試合が長引いてしまうと、乗り継ぎがなくて帰れなくなるお客さまも出てくる。球団に連絡すれば、各方面の最終連絡時間について(ドームの)オーロラビジョンで案内してもらえるようにしてあります」

そんな話も飛び出し、かなりの長丁場も覚悟していた10回裏。なんとも劇的な結末が待っていた。西武の川越選手がライトスタンドへサヨナラホームラン!

「よし、終わった」。ボールがスタンドに跳ねたのを見た脇田さんは、事務室の電話の前に移動して球団からのゲームセットの連絡を待つ。球審がゲームセットをコールするまで少々のタイムラグがあって、プルルと電話が鳴る。球団からの正式連絡だ。

「はい、はい。試合終了は21時36分ですね、ありがとうございます」

受話器を置いた脇田さんは「パターン6」で行くと決断した。すかさず運転司令と乗務員詰所に電話連絡。

電話連絡
筆者撮影

周囲にいた駅員たちもすぐに動き出す。「パターン6」だと、1本目の臨時急行は21時47分に発車する。約10分後だ。決着を見届けたファンがスタンドから駅まで歩いてもギリギリ。ただ、それより15分遅い発車になる「パターン7」では遅過ぎるという判断だった。

「(臨時列車の)1本目は少し乗車率が低くなるかもしれませんが、きっと大丈夫でしょう」と脇田さん。