救命救急の現場では、どのような治療が行われているのか。『自分らしい最期を生きた人の9つの物語』(KADOKAWA)を上梓した看護師の前田和哉さんは「ICUに運び込まれてくれば、延命治療が最優先になる。このため胸の骨をバキバキと折りながら、心臓マッサージを続けることもあった。私はそんな現場に疑問を持って、救急科を離れることになった」という――。
緊急搬送
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新人ナース時代に感じた“違和感”

私が看護師としてのキャリアをスタートしたのは、2009年のこと。静岡県内の総合病院に就職し、救急科の集中治療室(ICU)に配属されました。

救急科には昼夜問わず、ひっきりなしに重篤な患者さんが運ばれてきます。中には治療によって回復する人もいましたが、運ばれてきた時点ですでに心肺停止に近い状態で、手の施しようのない方もたくさんいました。

1分1秒を争うような厳しい現場で患者さんの治療やケアに奔走していた私は、看護師として日々やりがいを感じながらも、ある違和感をおぼえるようになりました。

それは、今後回復が一切見込めない、高齢の患者さんに対しても、次々と心肺蘇生や延命治療が行われていくことでした。

骨が“バキバキ”と折れても心臓マッサージは行われる

実際に救急の現場でどのような救命措置や延命治療が行われていたのか。

まず、患者さんが心肺停止に陥った場合、即座に心臓マッサージが行われます。ただ、強い力で胸骨を圧迫するため、骨がバキバキと音を立てて折れてしまいます。特に高齢の方の場合は骨ももろくなっており、若い人以上にダメージが大きいのは間違いありません。

衝撃だったのは、その折れた骨が肺に刺さって、たびたび出血するということ。患者さんはこの時点で自発呼吸が弱まっているため、人工呼吸器の管を付けることになりますが、その際に吐血のように血が噴き出してくるのです。

さらに患者さんはショック状態に陥っていて、血も止まりにくくなっている。とめどなく流れる血液を吸引したり、拭き取ったりする処置をし続けなければなりませんでした。

血圧も大きく下がってしまいますから、点滴を大量に投与して血圧を上昇させます。すると、全身がむくみ出し、身体に吸収されなかった水分が小さな傷口や点滴の痕などからどんどん出てきてしまいます。吸収シートで全身をぐるぐると巻いて、流れ出る水分を拭き取る処置も欠かせません。

むくみの影響は顔面にも及び、誰だか見分けがつかなくなるほど顔が膨れ上がることもありました。まぶたも閉じなくなり、眼が開いたままの状態になることも……。乾燥を防ぐために、眼の表面に保湿剤のワセリンを塗って、ラップフィルムをかぶせる。そうした処置もナースの仕事の一つでした。

あまりに痛々しくて、目を覆いたくなるような場面もありましたが、実際に医療現場でどのようなことが起こっているのか、知っていただきたいと思い、ありのまま書かせてもらいました。

医療系ドラマの救命のシーンのように、「命が助かってよかった」と軽々しく言えないほど、壮絶な現場であったことは確かです。