その一方で、アカデミー賞が成立するのも、舞台裏での努力の積み重ねのおかげである。厳密で真摯な選考のプロセスはもちろんのこと。そもそも、すぐれた映画が生み出され続けなければ、産業としての映画が成立しない。すぐれた映画を生み出すのは、脚本、演出、監督、演技、衣裳、編集をはじめとした映画づくりに関わる数多くの人たちのたゆまない努力である。

ハリウッド映画のエンドロールを見ていると、そこに参加している関係者の多さに驚く。どんな俳優を配するかという「キャスティング」の仕事。現場に食事を届ける「ケータリング」の担当。特殊撮影を行う技術者たち。気が遠くなるほどの営為の積み重ねを通して、やっと一本の映画が出来上がる。

そして、1年間に公開される無数の映画のうち、ごくわずかだけがアカデミー賞にノミネートされ、そのうちの選ばれしものが、最終的に栄光に輝く。

緻密で、地味な努力と、きらびやかで派手な演出の組み合わせ。アカデミー賞授賞式を成立させている条件を見ていると、現代における「勝利の方程式」が見えてくる。

世界中からお金を集める一つの巨大な「マシーン」であるハリウッドの映画産業。そのきらびやかな表面にだけ目が向きがちだが、私たち日本人にとってより共感できるのは、地道な舞台裏の努力のほうなのかもしれない。

地道な努力があってこそ、華やかな演出も活かすことができるというアカデミー賞の授賞式。そこには、映画人としての誇りと喜びがある。

「派手な演出」が、「丹念な積み重ね」とは対極のものと思いがちな私たち日本人。アカデミー賞の「勝利の方程式」から学ぶことは、きっと多いはずだ。

(写真=Getty Images)