カヤックにみるイノベーションの4つの段階
ホワイトウォーター・カヤックのイノベーションの歴史は4つの段階で整理することができる。最初の段階は55~80年で、激流の中をカヤックで進みたいと思った愛好家たちが巧みに操作できるカヤックを繊維ガラスで作ったり、櫂で漕ぐ新しいテクニックを生み出すというものだった。カヤックが繊維ガラス製だったのはユーザーが形や長さを加工しやすかったからで、その分、壊れやすく、激流の中、何かに衝突したときには簡単に壊れてしまうことがあり、それが欠点でもあった。
イノベーションの第2段階は80~00年で、この期間に船体の壊れやすさの問題が解決された。カヤックを繊維ガラス製からポリエチレン製にすることで耐久性が著しく向上したのだ。その結果、川の中にある障害物を避けず、あえてぶつかりながら進んだり岩にぶつかりながら滝を降りることに挑戦する者が現れはじめた。
第3段階は第2段階と並行して始まった。ある少人数のグループが当時の主流だったポリエチレン製カヤックを無視し、繊維ガラスを使ってスクウォートボート(squirtboat)というカヤックを作り出した。スクウォートボートは低浮力にデザインされていて船を完全に水面下に潜らせて進めることもできるし、水面上を進ませることもできた。それまでカヤックは前後、左右という動きしかできなかったがスクウォートボートはそこに上下の動きを加えたのだ。
しかし、こうしてカヤックの楽しみ方の新たな可能性を提示したスクウォートボートだったがデザインに問題があった。動きが激しく浮力が低い分だけ個々の乗り手の体重に合わせてカヤックをデザインせざるをえず大量生産に向かなかったのだ。