最初、私は結愛を千葉へ一緒に連れて行く気だったんです。でも、娘は地元の友達がいるし、私についてくる気はまったくなかった。向こうへ行ったら、友達もいないし、第一、土日はうちでひとりっきりで過ごすことになるのですから。それなら、私が単身で行って、面倒はおじいちゃん、おばあちゃんにまかせたほうがいいとなったんです。それで、泣いて別れて……。

向こうに行ってから、1カ月に一度は御殿場に戻ってきました。千葉から御殿場まで道が混んでなければ2時間から2時間半で着きます。娘とは毎日、SNSの電話で話をしてましたし、手紙をもらいました。

「ママ、行かないで」と泣きながら窓を叩き…

ただ、1カ月に一度、帰ってきて、千葉に戻る時間になって、私が車に乗り込む。娘がうちにいるすきに、車に乗ってアクセルを踏んでブーッと出て行ってしまえばいいんです。でも、最初の信号のところで止まると、走ってきた娘が窓の外からどんどんどんどんって叩くんですね。「ママ、行かないで」って、泣きながら窓を叩く。

野地秩嘉『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)
野地秩嘉『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)

私はもう涙が流れて仕方ないけれど、「ゆあ、また来月来るからね」って心のなかで言って、窓を開けないで、泣きながら車を運転していく。すると、後ろからずーっと走ってくるのが見える。それがつらかった。八千代から御殿場に戻るまでの2年間、別れる時はずーっと泣きながら運転してました。

でも、転勤の期間が終わり、自宅に戻ってから、娘に「あの時、大泣きしたよね」って言ったら、「そんなことないよ。泣いてないよ」って。結愛は泣いたんです、あの時……。

このように、それぞれのキャディには彼女、彼だけの物語がある。

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