冷戦が終結した1990年代、アメリカはどのような社会だったのか。ボストン大学のブルース・シュルマン教授と作家カート・アンダーセン氏のインタビューを収録した『世界サブカルチャー史 欲望の系譜 アメリカ70-90s 「超大国」の憂鬱』(祥伝社)から、一部を抜粋してお届けする――。(第2回)
ブッシュ大統領とゴルバチョフ大統領
1990年6月、ホワイトハウスで協定にサインをするブッシュ大統領とゴルバチョフ大統領(写真=George Bush Presidential Library and Museum/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

映画で読み解く90年代のアメリカ社会

1989年11月にベルリンの壁が崩壊し、40年以上にわたって続いた東西ドイツの分断にひとまずの終止符が打たれると、翌月にはソ連のゴルバチョフ書記長とアメリカのジョージ・H・W・ブッシュ大統領との間で「冷戦終結」が宣言された。「ヤルタからマルタへ」とも表現された、劇的な戦後史のメルクマールが80年代の最後を彩り、国際政治の力学の構図を揺さぶることになる。

冷戦という戦いが無くなることで、世界は小春日和のようなひと時の穏やかな空気に包まれたが、それは90年代に入り、あっけなく崩れ去る。サダム・フセイン大統領指揮下のイラク軍がクウェートへ侵攻すると、アメリカはNATOや国連に呼びかけて多国籍軍を組織し、湾岸戦争が勃発する。

結果的に、明確な「敵」のいなくなったアメリカが次に目指したのは、グローバル社会におけるリーダーの立ち位置だった。その姿勢が最初に現れたのが中東だった、ということになる。「ポスト冷戦」の世界は、「新たな世界秩序」(ブッシュ)を確立すべく動き出したのである。

明確な敵を失ったアメリカ──シュルマン
ブルース・シュルマン
ブルース・シュルマン(写真提供=NHK)

1990年代、より詳しく言えば、ベルリンの壁が崩壊してから2001年の同時多発テロまでの期間は、ポスト冷戦の時代と呼べます。

ジョージ・W・ブッシュは、2005年の大統領就任演説においてこの時期を「サバティカルの年月」と呼んでいました。長い冷戦の後で明らかな敵のいないアメリカが、世界情勢から「休暇(サバティカル)」を取ったかのような数年間を過ごしたからです。そして2000年代に入ってアメリカが直面したのが、厳しい国際テロリズムとの戦いだったわけです。