ウクライナ侵略の影響で、各国が「LNGの脱ロシア化」に頭を悩ませている。国際大学の橘川武郎教授は「再生可能エネルギーの大規模導入には時間がかかる。当面の代替策は石炭火力。日本では高効率の石炭火力プラント新設工事が進んでおり、ここで石炭ではなくアンモニウムを燃焼させれば、カーボンフリー火力にできる」という――。
碧南火力発電所
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ウクライナ危機が拍車をかけた「天然ガス危機」

2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵略は、2021年から始まっていた世界的規模の「エネルギー危機」に拍車をかけた。エネルギー危機が世界に広がったのは、ロシアが天然ガス・原油・石炭の主要な輸出国の一つだからである。

エネルギーのロシア依存度が高い欧州諸国、低いとは言えない日本は、天然ガス・石油・石炭の脱ロシア化を進めることになったが、そのなかでひときわ困難なのが天然ガスの脱ロシア化である。原油・石炭の場合にはロシアに代わる輸入先を見つければよいが、天然ガスの場合には代替輸入先の確保だけではすまない事情がある。

天然ガスをパイプラインにより陸路でロシアから輸入してきた欧州諸国は、今後は多くの場合、新しい供給先から海路を通じてLNG(液化天然ガス)を輸入することになる。つまり、高いコストをかけて、LNGの輸入基地を建設しなければならないのである。

スポット契約への変更でコストが大幅増

一方、島国である日本は、もともとLNGを大量に輸入してきたので、幸いにもすでに多くの輸入基地を有している。しかし、わが国の天然ガスの脱ロシア化には、別の難問が存在する。日本にとって、ロシアからのLNG輸入の停止は多くの場合、長期契約からスポット契約への変更をともなう。この輸入契約の変更が、大幅なコスト上昇をもたらすのである。

2020年後半からの燃料価格の上昇により欧州諸国では、この2年間にガス料金や電気料金が数倍になったケースもあった。それに比べれば、日本のガス・電気料金の値上げ率はずっと緩やかである。

この違いが生じる理由は、重要な電源であり熱源である天然ガスの調達に関して、日本はヨーロッパに比べて長期契約の比率が高く、スポット契約の比率が低い点に求めることができる。スポット契約による取引価格は、市場の需給関係の動きを反映して、激しく変動する。これに対して、長期契約による取引価格は、長い目では需給動向を反映するものの、変動の度合いがはるかに緩やかである。