飲食店員や医療関係者などは「燃え尽き症候群」を起こしやすいと言われている。だが、産業医の池井佑丞さんは「最近では職種にかかわらず燃え尽きのリスクがある。個人だけではなく、職場全体で予防する意識を持った方がいい」という――。
スマホをチェックする男性
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「燃え尽き症候群」は誰でもなりうる

新型コロナの流行以降、リモートワークや在宅勤務の環境が整えられ、オフィスに集まらなくても仕事ができるようになった方も多いと思います。今後もその流れは継続すると思われますが、その一方でメンタル面でのリスクが高まっていることに目を向ける必要があります。

オラクル・コーポレーションとWorkplace Intelligence社が日本を含む11カ国で実施した調査では、世界の労働者の84%がリモートワーク中にストレスやメンタルヘルスに問題を感じていることがわかりました。また、35%の人がリモートワークによって毎月40時間以上多く働くようになったと回答したそうです(日本オラクル「日本を含む11カ国、12,000人調査:82%が、人よりロボットがメンタルヘルスを上手く支援と回答」2020年10月8日)。

読者のみなさまは「燃え尽き症候群」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。(「バーンアウトシンドローム」とも呼ばれます。)それまで熱心に物事に打ち込んでいた人が、突然まるで燃え尽きてしまったかのように熱意や意欲を失ってしまう状態を表します。

努力に見合う結果が得られなかった、大きな目標を失った、など何かしらのきっかけがあります。ここがうつ病とは区別されるところであり、症状自体はうつ病と共通する部分も多いです。ストレス社会の現代において、燃え尽き症候群は誰にでも陥ってしまう可能性があり、今特にメンタル面での不調を感じていないからといって安心はできません。今回は燃え尽き症候群について、特に職場における燃え尽きに焦点を当ててお話しします。

「燃え尽き」の症状には段階がある

まずは燃え尽き症候群の症状や特徴を確認しましょう。基本的には心身の過度な疲弊が継続した状態から、突然「燃え尽き」が起こるように見えます。しかし、一言に「燃え尽き」と言っても、症状は段階を踏んで進んでいくと言われています。燃え尽き症候群の研究で採用されている3つの尺度〔Maslach Burnout Inventory(MBI)〕に沿ってご紹介します。

1.情緒的消耗感

情緒的消耗感とは、“情緒的に”力を出し尽くしてしまったことによる消耗状態を指し、これは燃え尽きの初期段階の可能性があります。仕事や生活をしていく上で、どんな方でも疲労を感じることはありますが、情緒的消耗感と単なる疲労とは異なるものです。仕事がつまらなく思えて仕方ない、心身ともに疲れ果ててしまった、などと感じる場合は情緒的な消耗である可能性があります。

2.脱人格化

情緒的に消耗した状態が続くと次に起こるのが“脱人格化です。相手の人格を無視したり、思いやりをもたない割り切った対応をしたりするなど、周囲との関係において非人間的な行動をとってしまうのが特徴です。これ以上の情緒的な消耗を防ぐために働く防衛反応からくる行動であると考えられます。

3.個人的達成感の低下

情緒的消耗、脱人格化の状態のまま仕事を続けると、業務の質や、周囲からの評価も低下していきます。自身も仕事へのやりがいや達成感を感じられなくなったり、自信を失ったりするため、離職につながってしまう可能性も出てきます。