合言葉は「打倒ナイキ」。アシックスとアディダスが新しい「厚底」シューズを6~7月に発売するのを前に、自社イベントを開催。好タイム続出でPRに余念がない。スポーツライターの酒井政人さんは「2022年の箱根駅伝では、両社のシューズを着用した選手が急増したが、今回の新商品の評価が高まれば王者ナイキとのシェア争いはより熾烈なものになる」という――。
アシックス「METASPEED SKY+」
写真提供=アシックス
アシックス「METASPEED SKY+」

アシックス、アディダスの「新厚底シューズ」の実力

そこにあったのは「打倒ナイキ」という目標である。

4月下旬、アシックスとアディダスが欧州でそれぞれランニングイベントを実施した。契約ランナーたちに発売前の新しいモデルのシューズを着用させて、「5km」「10km」「ハーフマラソン」の記録を狙わせたのだ。いい記録が出ればメディアがそれを報じて、新シューズのいいPRにもなる。

先行はアシックス。4月24日にスペイン・マラガでイベントを仕掛ける。アシックスの誇るアフリカや欧米などのトップアスリート79人が新シューズを履いて参加した。

後攻となるアディダスは4月30日にドイツ本社があるヘルツォーゲンアウラハでイベントを開催。やはりアフリカなど世界から招待したエリートランナーが新作シューズを履いて独自設定した周回コースを走った。

結果はどうだったのか。天候(気温、湿度、風)、コース、レース展開が異なるため単純な比較はできないが、各部門のトップタイム(□がアシックス ■がアディダス)を比べた。

女子ハーフマラソン
□1時間7分30秒 ■1時間7分28秒

男子ハーフマラソン
□59分54秒 ■59分30秒

女子10km
□31分39秒 ■30分24秒

男子10km
□27分14秒 ■26分50秒

女子5km
□14分45秒 ■14分37秒

男子5km
□13分20秒 ■12分53秒

両社ともハーフマラソンのタイムは今ひとつだったが、10kmと5kmでは好タイムが続出した。アシックスは4つ、アディダスは9つのナショナル(選手の出身国)記録を出した。

しかし、このナショナル記録に“価値”があるかと言われれば、微妙だ。5kmや10kmは、ロードを走るかトラックを走るかでタイムが大きく異なる。競技的に、メインはトラックであるため、今回両社で実施したロードでの記録はそもそも“価値”が高いとはいえない。アシックスは「79人のうち27人が自己ベスト」としているが、そのなかには5km・10kmレースをほとんど走ったことがない選手も含まれている。