採用前提で話を進める施設の事務局長

求人募集していた2番目の施設もすぐに面接の日取りが決まった。電話に出た事務局長の話し方はとても人あたりがよく、私はこの施設ならいけるかも、と彼の声を聴きながら期待を膨らませた。

面接当日、市街地から離れた山奥の施設に出向くと満面笑顔の年輩者(彼が事務局長だった)と、彼とは対照的にこわばった顔の40代くらいの施設責任者という男性が面接に応じてくれた。思ったよりはるかに大きな病院に併設された介護施設だった。

履歴書を見ながら事務局長は、「君、体格がいいね、何か運動していたの?」とか、「このあたりは冬場は雪が積もるから運転がたいへんだけど、そのうち慣れるよ」などとすでに採用が決まったような物言いだった。

ところが隣の男性はどうもさえない表情をしている。

インタビューするビジネスマン
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「もし働けるとしたらいつごろから来られそうですか? たとえば……」。事務局長が言い終わらないうちに話をさえぎり、40代くらいの男性が怒ったような声で言った。

「その前に、ひとまず施設の中を案内します」。そして私に立つように促し、私はそのまま彼のあとに続いた。

「正直に言いますけど、うち、やめたほうがいいと思いますよ」

いったいなぜ彼は不機嫌なのだろう?

これで半年ぶりに仕事に就けるという明るい気持ちの一方で彼の態度のほうが気になり始めていた。思い切って背後から彼に尋ねた。

「ぶっちゃけ、どうなんですか?」

今思うと採用権限者かもしれない相手に対して私は砕けた物言いをしてしまっていた。「真山さん、ほかも当たったのですか?」。意外な返答だった。

「いえ、ここが2件目ですけど……」
「ここだけの話、正直に言いますけど、うち、やめたほうがいいと思いますよ」
「えっ? なぜですか」
「あの事務局長、役所からの天下りで、実務のことなどまったくわかってない一時の腰かけです。それなのに誰でも簡単に採用するし、辞める相手にも、『あっそ』だけでろくに引き留めもしない」
「だからといって……」
「いや、今までの経験でだいたいわかります。彼が即決で入れたがる人は、だいたい2カ月以内に辞めます」
「どうしてでしょうか?」
「彼があまりにも無責任すぎるからです。どんな事態が発生しても相談になんかまったく乗りませんよ。役所に長くいると、ああなるのですかね。私もいつ辞めようかとチャンスをうかがっているくらいですから。ここ絶対やめたほうがいいですよ。真山さんは年齢的にあとがなさそうだから多少条件が悪くても食いついてくると、彼は高をくくっているのです。下手すると冬場なんて彼の送迎までさせられますから」

もう黙るしかなかった。