外務省・防衛省の意向受けたメディア

鳩山政権が結局乗り越えられなかったのが、「抑止力」論議である。

日米共同声明の英語版と、日本語版“仮訳”(外務省ホームページより)。声明通り辺野古に移設することは本当に可能なのか?

中国の軍備増強で懸念される中台関係、哨戒船沈没で緊張を高める朝鮮半島情勢など、在沖米海兵隊を「抑止力」に直結させた報道は、共同声明の直前まで続いていた。メディア上の議論は、海兵隊の位置づけを「中台間や朝鮮半島の有事に機能する」と「抑止でなく侵略を任務とする海兵隊の多くは、そもそも普天間に常駐していない」とに二分された。

武器・装備はあっても住民から敵視される基地が抑止力を発揮できるのか、大いに疑問なのだが、議論のカタがつかないまま期限を迎え、鳩山政権は前述のように公約を翻して「辺野古」に舞い戻る。マスメディアは外務省や防衛省の意向を受けて前者の議論を煽り、政府案を県内移設に誘導、思惑通り「ほぼ現行案」に終息したのを見計らったうえで、今度は「中立」を装って「沖縄を騙した鳩山政権」を叩き、最後は「小鳩」の首を獲ることに成功した。

一方、「米国のトランスフォーメーションと日米同盟の変質~在日米軍再編と日米依存関係への影響」という論文が公開されたのも09年である。防衛省のシンクタンク「防衛研究所」が作成した「2007年度基礎研究報告書」に収録されたものだ。同論文は、日本側がモノ(在日米軍の基地提供と駐留経費)を、米側が人(戦略を含む軍隊)を、各々提供することで日米同盟が成立していることを前提に、「モノが減っても日米同盟が揺らぐことはない」と分析。その理由として、「米国には従来以上に軍事面で同盟国の助力が必要」「日本はモノだけでなく人的貢献も行っており、モノの貢献不足が相殺される」「日中交易増加が米国依存度を下げ、相対的に対米関係の力を底上げ」「衰退する米国がアジア戦略を維持発展させるうえで日本の協力は不可欠」の4点を挙げている。

米国が沖縄基地にこだわる理由には、抑止力論議とは全く異なる意外な観点もある。元沖縄県知事の大田昌秀氏はこのような見方を紹介する。

「沖縄を日本と切り離さなければ侵略の土台になる、という考え方があります。過去には実際そうでした。日本が戦争に負けたからではなく、日本が沖縄を橋頭堡にすることを防ぐために切り離したのだと。マッカーサーも同じ考え方をしていました。いま、歴史を考えずに皆が議論しているようにみえます」