セックスなんて何も特別なことじゃなかった

コンプレックスは自らを牢獄の中に縛り上げ、苦しめる。私自身、いじめを受けた経験があるため、彼女の気持ちがとてもよくわかる。

そんな体験もあって、Aさんの口からはこと性的な話となると「私には」「私なんて」という自己を卑下する言葉が頻繁に飛び出す。異性に対する幼少期のコンプレックスもあり、恋愛やセックスを常に自分とは無関係だと思い込み、長年蚊帳の外に置いていたのだ。

それでも35年も生きていたら、男性と付き合うチャンスがなかったわけではない。

「大学生の時に、バイト先で好きな人ができました。でも、私なんかが告白しても、彼にとって迷惑だろうって。告白して逆に気を使わせたくないし、どうせ振られますから」

そんな彼女が女性用風俗に出会ったのは、1年前、SNSで「自己肯定感」が上がったという体験ルポマンガを読んだことがきっかけだった。

「こんなのがあるんだ」

――これはラストチャンスかもしれない。年齢的にも、これが人に裸を見せられる最後のチャンスだ。すぐに利用を決意した。それは人生の一大決心だった。

池袋駅北口で待ち合わせたセラピストと、2人でラブホテルに入った。Aさんは、34歳にして生まれて初めてゴツゴツした男性の体に触れた。

Aさんは、「それまでセックスを美女にしか許されない行為だと思っていたんです。セックスって、自分にはどうしても縁のない行為だと思っていました」と語る。

女風では本番行為はできないが、男性の体に触れることはできる。Aさんは男性にフェラしてあげたり、性器をなめられたり指を入れられるという体験をした。その体験に、「とにかく感動」したのだという。そして、リアルな男性との性体験によって、ずっとシャットアウトしていたセックスや異性という存在を生まれて初めて身近に感じることができたのだ。

「ずっと性的なことには無縁だと思っていたけれど、実際やってみると何も特別なことじゃなく、私にもできることなんだという感動がありました」とAさんは晴れ晴れとした表情で語る。

ルッキズムに傷つけられた自分自身に向き合えた

女風の体験で勢いづいたAさんは、その後ある男性と処女喪失した。そして、現在付き合おうかと考えている人もいるという。

Aさんの話でとりわけ印象的だったのは、Aさんが長年抱いていたコンプレックスは、男性と性的な体験をしたからといって劇的に変わることはなかったということだ。

しかし女風を通じてコンプレックスを抱いている自分自身を冷静に見つめ直すことができたのは大きい。そしてそんな自分を、まるごと受け止めようとようやく思えるようになった。Aさんは、女性用風俗を通じて初めて人生のスタートラインに立ったと感じているという。

「女風が教えてくれたのは、コンプレックスは自分自身の問題だということ。それは、誰かの優しい言葉で癒やされるものじゃなくて、私にとっては、もっと深いところにあるものだった。そんな私にとって女風は自分自身と向き合ういいきっかけというか、荒療治になったと思います」

ルッキズム(外見至上主義)という言葉が、世間的にも知られるようになって久しい。しかし、かねてから特に女性たちは、幼少期から「美」や「かわいさ」を巡る視線に晒されているのが現実だ。そんなルッキズムが、Aさんのように、生涯に亘って深く人の尊厳を傷つけるということの重さに、私たちはもっと向き合うべきだろう。