「分散投資」に安心してはいけない

「長期投資」と同じように、投資の基本のように言われるのが、「分散投資」です。

分散投資の説明で、よく言われるのが「卵は、一つの籠に盛るな」という言葉。卵を同じ籠に入れておくと、その籠を落としたら全部割れてしまう。

けれど、いくつかの籠に分けて入れておけば、一つの籠を落としても他の籠に入れてある卵は割れずに無事で済む。つまり、リスクが分散されるということ。

これは投資のセオリー、基本中の基本と言われています。

でも、本当に分散投資で、損を減らすことができるのでしょうか?

2008年9月15日、リーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破綻し、世界中に「リーマン・ショック」が津波のように波及しました。

震源地はアメリカでしたが、アメリカのドルが売られたために日本は円高になり、リーマン・ショック前に1ドル110円ほどだった円は、一時87円まで円高になりました。この円高で、輸出産業は収益に大打撃を受け、そのため日経平均株価は大きく下がりました。

2008年1月には1万5157円だったのに、リーマン・ショック後の10月には6995円まで下がり、半値以下になりました。債券も、売られてキャッシュ化されたので、大幅下落しました。と同時に、借金を負った人たちが土地や不動産を売ったので、不動産価格も下がりました。

つまり、円、株、債券、不動産と、別々の籠に資産を分けて入れておいたにもかかわらず、卵はすべて一気に割れてしまったということです。

もちろん、普通の相場の値動きの中なら、投資を分散することは、リスクヘッジになるかもしれません。

けれど、大きな波が来た時には、ほとんどのものが影響を避けられないということになりかねません。

ドルマークが書かれた袋とへこんだ金の卵
写真=iStock.com/William_Potter
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投資信託は金融機関の美味しい飯のタネ

怖いのは、今、頻繁に経済ショックが起きていることです。

1991年の日本経済のバブル崩壊に始まり、1997年にはアジア通貨危機、2000年にはITバブル崩壊、2001年にはアメリカ同時多発テロ、2008年にはリーマン・ショック、2009年にはギリシャ経済破綻危機、2011年には東日本大震災、そして2020年からの新型コロナショック、ウクライナ危機――と、大きな経済危機だけでも、これだけ頻繁に起きています。

東日本大震災は典型的で、株価が暴落し、日本が財政難になるとの予測から債券価格が下がり、円は1ドル76円の急激な円高になって、どの卵も割れました。

もちろん、多額の資産を持っていて機敏に運用している人は、状況次第でさまざまな金融商品に資産を移しながら、分散投資で損を減らしています。

たとえば、10億円くらいの資産を持っている人なら、さまざまなものを運用できる資産があり、機敏に動けるファンドマネジャーがついています。こういう人は、最低でも5000万円くらいの手数料をファンドマネジャーに支払っています。

では、投資資金が100万円くらいという人は、どうでしょう。

分散投資するほどの財産はないので、手頃な「投資信託」を買うことになります。

投資信託は、金融機関にとってはおいしい金融商品です。なぜなら売る時と買う時以外にも、持っているあいだはずっと「信託報酬」という手数料が入るから。買った人がその投資信託で損しようが得しようが、金融機関は確実に儲かる。

中には「ファンドオブファンズ」といって、投資信託を複数組み合わせ、二重、三重に手数料を取っているものもあります。金融機関が儲かるようになっているのです。

ちなみに、分散投資でリスクを減らすということは、投資の世界では、同時にリターンも減るということになります。リスクだけは分散投資で減らして、リターンはそのままなどということはありえません。