地球温暖化対策としてのLCAがまだあまり知られていないのは、その考え方がややわかりにくいこととともに、その効果が定量的に把握しにくいことによるものである。したがって、LCAの効果を「見える化」することは、LCAの普及にとって、きわめて重要な意義をもつ。この困難な「見える化」に挑戦したのが、日本化学工業協会の報告書なのである。

その報告書では、評価対象年を20年とし、対象年1年間に製造される製品をライフエンドまで使用したときの正味のCO2排出削減貢献量を推計している。化学製品は、エネルギー部門、輸送部門、民生家庭部門など、様々な分野の完成品について、使用時においてCO2排出量の削減に貢献する。表2は、報告書の推計結果をまとめたものであるが、今回取り上げた8つの事例(太陽光発電、風力発電、自動車、航空機、LED、住宅用断熱材、ホール素子、配管材料)だけでも化学製品は、化学製品を用いない場合に比べて、ライフエンドまでに約1億1000万トンのCO2排出量削減に貢献するキーマテリアルであることを伝えている。

この1億1000万トンというCO2排出削減量は、90年度の日本の温室効果ガス排出量12億6100万トンの9%弱に当たる。日本は、現在、08~12年の平均値で温室効果ガス排出量を90年比6%削減するという、京都議定書によって義務づけられた目標を達成するために大変な努力を重ねている。日本化学工業協会報告書が取り上げた8事例で化学製品を効果的に用いるならば、20年には、京都議定書で現在日本に義務づけられている規模以上の温室効果ガス排出量の削減を、それだけで達成することができるわけである。

報告書によれば、表2で取り上げた8つの事例で、化学製品を用いた完成品自体が排出するCO2の量は、475万トン程度であるという。CO2について、自らの排出量に対し、これを大きく上回る削減の実現に寄与するわけであり、地球温暖化対策としての効果は大きい。しかも、表2の最下行が伝えるように、海外での普及が中心となる海水淡水化技術について、正味のCO2排出削減貢献量を推計すると、その値はなんと1億7000万トンに達するというのである。

報告書には、CO2排出削減効果が大きい住宅用断熱材に関して比較製品の選定に問題を残すなど、不十分な点も含まれている。しかし、日本化学工業協会が、同報告書を通じ世界に先駆けて、LCAの効果を部分的ではあれ「見える化」したことの意義は大きい。LCAは、日本発のもう一つの「地球温暖化対策の切り札」となりうるのである。

(AP/AFLO=写真 平良 徹=図版作成)