敗戦をきっかけにロシアでは革命運動が起きる

【小太郎】東郷さん、負けたロシアの司令官に優しくできるなんて、かっこいい。

【つきじい】戦争にもルールがある。戦時国際法といってな。この時代の日本軍は戦時国際法をきちんと守ってた。日本が文明国であることを認めてもらうためじゃ。

【小太郎】ロシアはもう攻めてこなかったんですか?

【つきじい】来なかった。実は、日本に負けたことを知ったロシアの民衆が、革命運動を起こしていたのじゃ。

【小太郎】革命⁉

【つきじい】うむ。ロシアはロマノフ王朝の専制国家だった。憲法も議会もなく、一握りの貴族が富を独占し、国民の大多数は貧しい農民じゃった。日露戦争が始まると、食糧を戦地の兵隊に送ってしまったため、食糧不足が起こっていた。

【小太郎】お腹がすいていたら、戦争どころじゃないですね。

【つきじい】そういう国民の声が、皇帝ニコライ2世には届かなかった。議会とか、選挙というものがなかったからじゃ。だから革命になった。

【小太郎】日本から見れば、ラッキーですね。

ロシアに極秘潜入していた秘密工作員

【つきじい】実は日本軍は、ロシア革命をひそかにあおっていた。

【小太郎】ええっ! どういう意味ですか?

【つきじい】日本陸軍は秘密工作員をロシアに潜入させ、革命家に資金を提供していた。

【小太郎】どうしてバレなかったんですか?

【つきじい】ロシアは多民族国家で、アジア系の顔をした国民もたくさんいる。日本人が潜入しても、少数民族と間違えられるのじゃ。

【小太郎】てことは、ロシア革命を起こしたのは日本軍?

【つきじい】少なくとも手助けしていたことは間違いない。10年後の第一次世界大戦では、ドイツ軍がロシアの革命家を手助けした。ロシアの革命家レーニンはこう言った。「戦争を、革命につなげるのだ!」

結局、日露戦争の10年後、第一次世界大戦の最中に、ロシア帝国は革命で滅んでしまった。だから日露戦争は世界の歴史を大きく変えたことになる。

【小太郎】そうだったのか……。

列強の植民地支配がゆらぐ

【つきじい】もう一つ、日露戦争が世界史に与えた影響がある。

【小太郎】なんです?

茂木誠、大久保ヤマト『バトルマンガで歴史が超わかる本』(飛鳥新社)
茂木誠、大久保ヤマト『バトルマンガで歴史が超わかる本』(飛鳥新社)

【つきじい】19世紀の世界では、西洋人の文明国がアジア・アフリカを植民地として支配していた。日本はアジアの国だが議会を開き、国民軍をつくり、大国ロシアと正々堂々、戦って勝利した。この戦争を見たアジア・アフリカの人たちは考えた。「日本のように議会制度を取り入れれば、オレたちも、西洋人に勝てるかもしれない――」。

【小太郎】おお~っ!

【つきじい】実際、フランス植民地のベトナムやイギリス植民地のインド、半植民地状態のイランやトルコでも独立運動や革命運動が起こり、植民地支配がゆらいだ。

【小太郎】日露戦争って、日本とロシアだけの戦争じゃなかったんですね。

【つきじい】ロシアの革命家レーニンはこう言った。「日露戦争は、遅れたヨーロッパ(ロシア)と、進んだアジア(日本)との戦争だった――」。

(シナリオ=茂木誠、マンガ=大久保ヤマト)
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