※本稿は、鳥集徹『医療ムラの不都合な真実』(宝島社)の一部を再編集したものです。
いまの報道から思い起こす「イレッサ事件」
新型コロナワクチンの問題でとにかく呆れるのが、マスコミが反省しないことです。医療取材を通じて薬害の歴史を学んできた私から見ると、今回もマスコミが過去の過ちを繰り返していると思えてなりません。
この状況を見て私が思い起こすのは、副作用で多くの人が亡くなった「薬害イレッサ」の事件です。
新しいタイプの肺がん治療薬として登場したイレッサ(一般名ゲフィチニブ)は、臨床試験で高い安全性と有効性が認められたとして、申請から5カ月という異例のスピードで、2002年7月、世界ではじめて日本で承認されました。
この薬は、承認前から医師向けの専門誌などで、「がん細胞だけを狙い撃ちする画期的な分子標的薬」、「従来の抗がん剤に比べて副作用が少ない」という宣伝が繰り返されました。そして、製薬会社のプロモーションに関与した専門家の言葉をマスコミは無批判に受け入れ、結果として宣伝に加担するような記事を掲載しました。
こうした報道に、肺がんで苦しむ患者や家族、医療関係者の期待は膨らみ、いつしか「夢の新薬」であるかのように語られ始めました。そして、飲みやすい錠剤であったことも手伝って、短期的に数多くの患者が服用しました。がんの薬であるにもかかわらず、一般開業医や歯科医までが処方したといわれています。
「夢の新薬」の副作用で800人超が死亡
その結果、どうなったか。臨床試験では十分に把握できなかった「間質性肺炎」という重篤な副作用が多発し、2011年9月までに公式発表だけで834人が死亡する最悪の事態となったのです。
そして、問題はここからです。副作用の多発が問題になると、それまで持ち上げていたマスコミは一転、イレッサを叩き始めたのです。もちろん、副作用を過小評価した製薬会社や専門家の姿勢は問題ですが、彼らのプロモーションを批判・検証することなく、患者や家族、医療関係者の期待を煽ったマスコミの責任も重大ではないでしょうか。
またのちに、副作用の被害を受けた患者と遺族らが国と企業の責任を問うた裁判の過程で、イレッサの臨床試験やプロモーションに関与した専門家たちが、この薬の製造販売元の企業から多額の寄附金、講演料、報酬などを受け取っていたことも明らかになりました。これに今回の新型コロナワクチンと同じような構図を見るのは、私だけでしょうか。