「転職活動を支援するサポーター」

むしろ転職は、医療よりもスポーツに近いと思います。

スポーツにも理論はありますが、観察による形式的な知識より、実践から得られる「身体知」がパフォーマンスに大きな影響を及ぼすという意味で似ているからです。

例えば、野球のコーチを野球未経験者が担当することは、まずありえません。仮に選手育成のためのコーチメソッドがあったとしても、自らスポーツを実践して身体的に得たセンスや学びがない人が、野球選手の動きを観察しても、適切な育成はできないからです。

したがって、まずはご担当の転職エージェントの方に、その人自身の転職経験を聞いてみてください。そのうえで転職経験に乏しいエージェントが担当だったら、その方にプロ視点でのアドバイスを求めるのは、期待するほうが間違っています。

そういうエージェントに期待するべき役割は「プロによるアドバイス」ではなく「転職活動を支援するサポーター」です。

「知見を得る」のではなく「やるべき作業を代わりにやってもらう」のです。そういう観点から、担当のエージェントには適切な要望をしてあげたほうが、双方にとってベストのはずです。

前述した「企業の非公開情報」について聞くのもそうですし、転職エージェントの方が毎日たくさんの履歴書や職務経歴書に目を通しているのは事実なので、伝わりやすいレジュメの書き方やフォーマットについて聞くのも、有効な転職エージェントの活用法です。

企業選びやキャリア選択も「その道のプロがいい感じにしてくれる」わけではありません。あくまで自分が、自分のキャリアの意思決定者であることを忘れないでください。

異業種で年収の下がる転職が紹介されづらい理由

2 転職エージェントが「いい案件」をくれるわけではない

とはいえ、彼らにやってもらえることにも限度があります。

転職エージェントは、ボランティアではありません。あなたが直接お金を支払って契約しているわけでもないのに、親身に話を聞いてくれたり、相談に乗ってくれたりするのは当然だと、「奉仕の精神」を彼らに求めるのは筋違いです。

なぜ彼らが話を聞いてくれたり、転職先企業を探してくれたり、履歴書や職務経歴書についてアドバイスをくれるのか。

それは、転職エージェントのビジネスモデルが「成功報酬型」だからです。企業から求人案件を請け負い、自分たちのサービスを介して人材を紹介し、その候補者が企業からの内定オファーを承諾して初めて、想定年収のおよそ30%を入社後に紹介手数料として企業に請求できます。

しかも、入社後数カ月での早期離職があった場合、一定の返金規定も設けています。個人と企業とのミスマッチを放置しないためです。

僕は新卒時代にリクルートの転職エージェント事業で働いていたので実感するのですが、彼らも目標数字を追っていますから、日々の業務は効率的に行う必要があります。

こういった背景が彼らの行動に影響します。それは、転職エージェント事業で収益を最大化するなら、「年収が高い人」に「内定しやすい業界や仕事」を紹介するのが最も効率がいいという考え方です。

その結果、早期離職傾向の強い人や、転職回数が多い人、年齢が高い候補者などは敬遠されがちです。なぜなら、内定が出やすい人にフォーカスしたほうが、効率よく成果を上げられるからです。

さらに言うと、たとえ素晴らしい経歴の人がチャレンジを希望したとしても「業界や職種が変わる転職」や、「異業種ゆえに年収が下がる転職」は、あまり積極的には紹介したがりません。年収が下がれば彼らの報酬も減るからです。

これは、転職エージェント一人ひとりの問題ではなく、ビジネスモデルが生みだす認知バイアスであり、行動メカニズムなのです。

このことを理解したうえで、転職エージェントとは適切かつ対等に付き合うようにしましょう。エージェントに過度に依存し、言われるがまま転職して「転職してみたら話が違った」では遅いですし、反対に転職する気がないのに彼らの時間を無為に使わせるのも失礼です。