「転職のプロ」とは「転職させるプロ」

1 キャリアアドバイザーが「転職するプロ」とは限らない

最初に壊すべきバイアスは「転職のプロに相談しよう」という僕らの先入観です。

皆さんは「転職エージェント」や「キャリアアドバイザー」という仕事に、どのようなイメージを抱くでしょうか。

「転職のプロとして、的確なアドバイスをしてくれる」
「自身の転職経験をもとに、多くの人を転職成功に導いてきた」
「自分の悩みに寄り添い、親身になって話を聞いてくれる」

そんなイメージでしょうか。

しかし、ここで注意すべきなのは、転職エージェントやキャリアアドバイザーだからといって、必ずしも転職が得意なわけではないということです。それどころか、一度も転職経験がない人がキャリアアドバイザーとして働いていることもあります。

なんだか不思議ですよね。だって考えてもみてください。もしもパーソナルトレーナーが、太っていたら? 投資アドバイザーが、投資経験ゼロだとしたら? 結婚アドバイザーに、結婚経験がないとしたら?

どう感じますか。「この人の話を信じて大丈夫かな?」と不安になりますよね。

僕はこの問題について、キャリアアドバイザーが言う「転職のプロ」とは「転職するプロ」ではなく「転職させるプロ」のことだと捉えています。

「転職に詳しい人」の属性を、4分割マトリックスで考えてみましょう。(図表1参照)

多くのキャリアアドバイザーは、「自分の転職実績が豊富」で、かつ「他人を転職させた実績も豊富」という「B」のエリアに所属しているはずです。

しかし、なかには自分の転職経験は乏しく「A」のエリアにいる方もいるでしょう。実績不足のキャリアアドバイザーは「C」のエリアですね。

一方で、僕のようなタイプは、転職させることを生業にしているわけではないですが、自分の転職経験は比較的豊富なので「D」に位置するはずです。

転職希望者が、この「A」や「C」のエリアにいるキャリアアドバイザーに、そうと知らずに転職のプロとしての期待値を求めるのは微妙です。

転職やキャリア実践の分野には「正解」がない

そう言うと、「いや、キャリアドバイザーは医者のようなものだから」と反論する人もいます。医者の不養生という言葉にあるように、お医者さんだって人間なので、自分が病気にかかってしまうこともあります。

医者が、自分がその病気にかからないと、治療できないわけではないのと同様に、転職エージェントだって「転職経験がなくてもアドバイスするのは構わないはず」というわけです。

なるほど、それは一理あるとは思います。自分自身の経験が乏しくても、多くの患者さんの症例と向き合ってきた経験からのアドバイスは、いち意見として有効だからです。

しかし、それをもって「転職やキャリアにおける医者さん」というのは飛躍しすぎです。なぜなら、医療と、転職・キャリアとでは、その再現性において比較にならないからです。

医療分野、例えば医薬品を例に挙げると、その効能に対しては副作用も含めた十分な治験が行われ、国の許認可を経たうえで、医師の手で処方されます。その結果、一定の再現性が保障されているわけです。

一方、転職の分野はどうでしょうか。転職やキャリア実践の分野には「これが正解」と言える一般解はほとんどなく、千差万別です。医療行為と違って誰も再現性を担保してくれません。

これが「転職エージェントはお医者さんのようなもの」という例えが、いまいちピンとこない理由です。