岸田首相はエネルギー政策転換を急ぐべきだ

このようにブロック化によって世界経済ではコストプッシュ型のインフレが進みやすくなる。その場合、中央銀行にできることは限られる。通貨の価値を防衛するために利上げなどが行われたとしても、物価上昇率を2%程度に落ち着かせることは難しい。

場合によっては、経済成長率が低下してマイナス成長が続くと同時に、物価が上昇する展開もあるだろう。グローバル化に支えられた“低インフレと緩やかな成長”から、ブロック化による“構造的物価上昇と成長率低下”に、世界経済のパラダイムがシフトしはじめた可能性がある。

そうした展開に対応するために、目先、わが国は経済安全保障の観点からエネルギー政策の転換を急がなければならない。エネルギー政策の転換は一朝一夕には進まない。それだけに岸田政権は迅速に対応方針をまとめなければならない。具体的に政府は、洋上風力など再生可能エネルギーの利用増加に集中しなければならない。

オランダ・エイセル湖の風力タービン
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エネルギーの安定供給は、国民が安心して、持続的に経済活動を送るために不可欠だ。また、安全保障体制の強化のために政府は米国との関係を基礎にしつつ、クアッド(日米豪印戦略対話)など多国間の連携も強化しなければならない。

教育と先端分野の研究開発力の“底上げ”

やや長めの目線で考えると、岸田政権はわが国産業界の実力を高めなければならない。具体的には、教育制度の見直しと強化によって、ITや脱炭素など先端分野での研究開発力を引き上げなければならない。それに加えて、労働市場の改革も急務だ。

突き詰めていえば、個々人が世界経済の環境変化に合わせて自らの能力に磨きをかけ、その発揮をよりダイナミックに目指すことのできる環境を整備することが必要だ。そうした取り組みが進めば、わが国の企業が新しいモノを生み出して需要を創出することはできる。

需要が創出できれば、経済の実力である潜在成長率は向上する。それが構造的な物価上昇に対する経済全体での抵抗力向上を支える。また、わが国はアジアや中東、アフリカなどの資源国との関係強化も急がなければならない。UAEは原油増産の加速を呼びかけはじめた。

今後の展開によっては、主要産油国が構成する“OPECプラス”の利害が分裂する展開もありうる。不測の事態に備えて、わが国は真剣に親日国を増やさなければならない。そのためにも、政府は産業界の新しい取り組みを支援して、米中をはじめ世界から必要とされる先端分野での製造技術の実現を目指さなければならない。