キプチョゲから学んでほしい

東京マラソン2021を制したキプチョゲは優勝賞金1100万円と大会記録ボーナス300万円を獲得したが、世界記録なら3000万円のボーナスが出ていたことになる。コース間違いがなければ世界記録にもっと近づけはずだが、キプチョゲは大会に対する不満を一切口にすることはなかった。それどころか感謝の言葉を述べている。

「2時間2分台で走れて、大会記録を更新できてハッピーです。東京五輪のマラソン会場が札幌に移転したことで、東京に戻ってくると約束していました。そして良い走りができて、多くの人たちにインスピレーションを与えることができた。それをうれしく思っています。東京を走らせていただき、ありがとうございました」

コース間違いのことなどまったく気にしていない様子で、終始穏やかな表情だった。記者会見の時間は10分。司会者が終了を告げると、キプチョゲは自らマイクを持って語り出した。

「皆さま、本当にどうもありがとうございました! 皆さまの幸福を祈っております。世界は今、本当に困難な状況にあります。ロシアとウクライナの問題もそうですが、皆が団結すれば必ず解決案は見いだせます。この世にはふたつの人種しかいません。ひとつは問題を起こす人たち。もうひとつは問題を解決する人たちです。われわれが団結して問題を解決するグループになりましょう」

大会側はキプチョゲの言葉から何を感じたのだろうか。

東京マラソンはこれまで海外のメジャーレースと比べても遜色のない素晴らしい大会との評価を得ている。それに筆者も同意する。大会の雰囲気やホスピタリティ、観衆のマナーなどを含めて、全体的に洗練されている印象があるからだ。

マラソン大会を上空から撮影
写真=iStock.com/ZamoraA
※写真はイメージです

またトップ選手からしても東京は走りやすい。海外のメジャーレースもペースメーカーはいるが、東京ほど“正確”ではない。予定していたペースで進まなかったり、ペースが不安定になったりということが少なくないのだ。ペースメーカーの人選と教育。加えてレースディレクターがきっちりと指示を出すなど仕事をまっとうすることでレースの評判は高まっていく。

今回の東京の大会運営に関しても十分に合格点が出せる内容と言えるだろう。好タイムが出たことで、来年以降も海外からビッグネームのランナーが集まってくる可能性もある。

しかし、それだけにコース間違い後のどこか腰の引けた“対応”は残念だ。

人間は誰もがミスをする。だから、そのことをとがめるつもりはないが、原因を明確にする姿勢をもっと打ち出すべきなのではないか。二度にわたるコース間違いがなぜ起きたのか。その要因を大会側は忖度なしにしっかりと説明すべきだろう。それが東京マラソンの“ブランド力”をさらに上げていくことになるのだから。キプチョゲの言葉のように、団結して問題を解決してほしいと思う。

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