事業計画は変わるがビジョンは変わらない

【大前】私の大学には、20年以上にわたっておよそ1000人の経営者から集めた体験談のコンテンツがある。そのうちの少なくとも十数名は克明に調べていて、動画などの話を聞けばわかると思うが、「こういう会社をつくりたい」と起業して、その通りになった経営者は見たことがないね。

【柴山】ビジョンは揺るぎないとしても、計画のほうはどんどん変化しますね。多くの起業家が壁にぶつかり、そこを乗り越えるとまた次が見えてくるのだと思います。だから私は、半年に1回ぐらい起業家が集まる合宿に参加しています。目的は失敗談の共有です。起業家の成功体験はバラバラですが、失敗はわりと同じパターンなんですね。成功は類型化できないので、失敗を類型化して学び合い、成功確率を上げようと。起業の本には書いていない失敗体験を直接聞けるのは大きいですね。アメリカは起業家が起業家を育てるエコシステムがあります。大前さんも起業家同士を結びつけていますよね。

【大前】失敗から学ぶのは大切だね。

【柴山】いかにお互いに弱みを見せ合うか、お互いに学び合えるかが重要だと思いますね。

【大前】起業は試行錯誤だからね。地べたをうように進んで、どんどん計画は変わる。私自身も、最後まで構想通りに進んだ会社はない。年中、方向転換している。方向転換がちゃんとできれば、ある程度は安定するんだ。成功するかは最後までわからないけど、事業はそういうものだよ。常に新しい方向を模索して軌道修正していくしかない。だから、柔軟性が重要だね。ウェルスナビもそうでしょ。

【柴山】創業後にサービスがつくれなくて、プログラミング学校に通ったことがまず完全に想定外でした。その後もチームづくり、資金調達など、計画通りだったことはほぼないですね。思い通りになったのは本当にビジョンだけです。だから、とにかくがむしゃらにやって、情報がない不確実性の中でいったん絵を描き切ってみることが重要です。そのあとで事業計画をちゃんと書いて、なるべく早く実行する。

大企業向けのコンサルティングに比べたら、起業は圧倒的に仮説の部分が多いですからね。早い段階で失敗して検証していく。その繰り返しで、できあがったものを見ると「あれ、最初に思っていたのと全然違うよね」ということが多いですね。

【大前】BBTも98年の設立時は、集合研修が中心だった。ところが、世界中に工場や拠点がある会社は、集合研修がやりにくい。だから、オンライン研修のシステムを開発した。離れたところにいてもディスカッションやデータ共有ができる「エアーキャンパス」をつくった。

そのおかげで、新型コロナが流行してもほとんど影響を受けずにそのまま継続できている。オンライン講義から1万時間を超えるコンテンツも蓄積できた。いずれ集合研修は減って、遠隔講義が増えると考えたけれど、最初からすべて見通せていたわけではなかった。

何度も言うが、起業家にとって最重要なのは、ブレないビジョンを持ち、試行錯誤していくということだ。

(構成=伊田欣司 撮影=的野弘路)
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