【柴山】810社のうち13社が上場しているのはすごい比率ですね。うまくいく会社には共通点があるのでしょうか。

ウェルスナビCEO 柴山和久氏

【大前】経営者のこだわりだね。特に、なぜ起業するかという出発点がはっきりしてないとウロウロすることになる。その点、柴山さんの出発点はいいと思った。

【柴山】私はウェルスナビのアイデアを思いつくまで、起業を考えたことはなかったんです。財務省に9年勤めた後、フランスのINSEADというビジネススクールに留学しましたが、金融を勉強しました。起業で有名なビジネススクールだから、周りに起業家をめざす人がたくさんいました。でも「起業しようなんて、すごいな」と当時は他人事だったんですね。

きっかけは日米で個人の資産に大きな差があることに気づいたことです。私の妻はハーバード留学中に知り合ったアメリカ人で、彼女の両親から資産運用について相談されたんです。運用状況を見たら、なんと日本円で数億円をプライベートバンクで運用している。義理の父は公務員、義理の母は石油会社に勤めていた普通のサラリーマンです。私の父も普通のサラリーマンなのに、資産に10倍の開きがあってびっくりしました。

【大前】金利が0.001%しかつかない銀行にひたすら貯蓄して、国民全体の個人金融資産は約2000兆円にもなっているからね。これは貯金を推奨してきた国策の影響だと思うよ。

【柴山】この違いは何かと考えていったら、日本には誰もが安心して利用できる資産運用サービスがないことに気づき、起業につながりました。

起業の第一歩は何に情熱を感じるか

【大前】マッキンゼーでは新規事業開発をよくやった。

【柴山】私も新規事業開発は多かったですが、起業とは発想が違いました。大企業の場合は、既存のリソースを活用するところから発想します。一方、起業家は既存のリソースがゼロなんです。お金はない、チームもない、場合によっては規制も対応していない。ないない尽くしの中で、あるのは本当にビジョンだけです。

【大前】起業に失敗はつきものだから、失敗しても他人のせいにしない。それだけの覚悟が必要だね。自分がやりたいと思ったことを自分の責任でやる。これしかない。

私は起業家に投資してほしいと頼まれたら断らないんだけど、起業家本人がオーナーシップを持って「この事業を成功させたい」というのが絶対条件だね。自分はどうしてもこれがやりたいという気持ちが、起業家の原点。「儲かるからやる」じゃ、うまくいかない。