不動産バブルを防ぐはずだった政権の誤算

中小企業向けの資金繰り支援が強化される一方で、2020年夏に共産党政権は、“3つのレッドライン”と呼ばれる不動産融資規制を実施し、不動産バブルの鎮静化に取り組んだ。共産党政権にとって想定外だったのは、3つのレッドラインが当初の計画以上に不動産市況を悪化させ、景気減速が鮮明化したことだ。

中国国家統計局が公表した主要70都市の新築住宅価格動向を見ると住宅価格が下落する都市が増えている。規制の影響をやわらげるために共産党政権は住宅ローン関連規制を緩和し始めたが、中国恒大集団が部分的なデフォルトに陥るなど不動産市況の悪化は深刻化している。

さらに悪いことに、新型コロナウイルスの感染再拡大も景気を下押しし、中小企業の事業環境はかなり厳しい。大手企業は輸出を増やして何とか収益を獲得しようとしているが、経営体力が相対的に弱い企業にとって内需の落ち込みは深刻だ。その結果、中国共産党政権と中央銀行は利下げに踏み切らざるを得なくなった。中国経済の実態はかなり厳しい。

雇用環境は政府のデータ以上に悪化している

今回の利下げは、共産党政権が財政・金融政策、さらには不動産関連などの規制の部分的な緩和を含めた景気支援策をこれまでに増して重視し始めたことを示唆する。特に、習氏は2022年2月の北京冬季五輪を成功させた上で同年秋の党大会にて3期目、さらに長期の支配体制を確立し、共産党の一党独裁を続けようとしている。そのためには取りうる政策を総動員することによって、雇用を守らなければならない。

2021年4月以降、中国国家統計局が発表する完全失業率は5.0%を挟んで推移している。11月の完全失業率は5.0%だった。しかし、この統計は中国都市部の失業率を表しており、農村からの出稼ぎ労働者である農民工は含まれていない。

実際の中国の雇用環境は政府データ以上に悪化しているはずだ。一つのデータとして、財新とマークイットが発表する製造業購買担当者景況感指数(PMI)を構成する雇用指数は50を下回り、なおかつ低下基調にある。また、中国人力資源社会保障省のデータを見ると、2021年9月以降は都市部の新規雇用の増加ペースが鈍化し始めた。