「結婚を重く考えずにすむ」と思った

「ケイタはその数カ月前に、長い間つきあっていた彼女に振られたんです。かなり落ち込んでいて、ようやく立ち直りかけたなと思ったときにそんな発言をしたものだから、『寂しさも極まったか』と冗談を言うと、いつもなら乗ってくる彼が笑わなかった。『いや、本気。オレとサワコ、合うんじゃないかと思って』って。それほど押しつけがましいニュアンスでもなかった。ちょうどルームシェアしていた女友だちが実家に帰るからと出て行ったばかりだったので、『ルームシェアみたいな結婚ならしてもいいけどね』と軽く言ったんです。そうしたら彼、『それがいい』と」

サワコさんは従来のような結婚ならお断りだった。だがケイタさんが「それがいい」と言うのを聞いた瞬間、彼となら“結婚”というものに踏み込んでみてもいいと思ったそうだ。結婚を重く考えずにすむのではないか、と。もしだめなら離婚してもいいのだから。みんながしている「結婚」を、こんな機会に自分もしてみるのは悪い経験ではないのかもしれないと感じたようだ。

結婚に積極的でない人でも「一度はしてみてもいいかもね」と言うのをよく聞くが、サワコさんもその程度のノリだったのだろう。

妙な意気投合があって、数日後には婚姻届を提出し、その週末には彼が彼女のマンションに越してきた。あっけない結婚だったが、バタバタした数日間が楽しかったという。

婚姻届けの用紙
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親孝行できてホッとしたが、結婚した実感はない

「婚姻届を出すとき、どちらの姓にしようかと一晩、話し合ったんですが、彼は『どちらにしても一方が大変だよね』と。女性が男の姓になるものでしょなんてことはみじんも考えていなかったから、この人、大正解だと思いました。結局、彼の姓のほうがかっこいいという理由で私が姓を変えたんですが、別の人生を歩むみたいでちょっと楽しかったですね」

引っ越しまでの間に、サワコさんは実家に電話をして結婚したことを話した。兄と弟は結婚しているのに、なかなか結婚しようとしなかった娘がようやくその気になってくれたと両親は大喜び。サワコさんが実家にいたのは高校生のときまで。関西の大学に進学し、東京で就職してからは、年に1~2度しか帰らなかったし、「いつ結婚するの?」「どうして結婚しないの?」という親がうっとうしくて距離をとったこともあった。だが結婚を報告したときの両親の喜びように、これで親孝行ができたとホッとした。ただ、彼女自身にはそれほど「結婚した実感」がわいてはこなかった。

「彼は幼いころに両親が離婚、祖父母に育てられたけれど、もう祖父母も他界していて、ほとんど親族がいない。それでも、『サワコの両親が喜んでくれてよかった』と言ってくれました。ケイタのことは友だちとしてしか知らなかったけど、結婚してみると意外といいやつだった。これならうまくやっていけるかもと思いました。新婚旅行は私が行きたかった中南米の旅でした」