リソースフル教育という考え方

ここからは、前野教授と、リソースフルを追求するという考え方を教育の場面で考えてみたいと思います。

平本あきお 前野隆司『幸せに生きる方法』(ワニ・プラス)
平本あきお 前野隆司『幸せに生きる方法』(ワニ・プラス)

【前野】幸福学では、ウェルビーイングな心の状態だと、創造性や生産性が高まり、成績も上がるし、リーダーシップも発揮できると考えます。これはまさにリソースフルな状態です。

【平本】そうですね。

【前野】そこで思うのは教育についてです。従来の教育は、社会や組織に貢献できるリソースを教えるリソース教育が基本でした。ところが近年、組織においてはモチベーションやエンゲージメントといったものに注目が集まるようになり、ウェルビーイングを高めることに力を注ぐところも増えています。リソースフル教育の方向に向かっていると思います。

【平本】おっしゃるとおりだと思います。学校教育においても「詰め込み教育はダメだから、ゆとり教育にしよう」と移行した時期がありましたが、ゆとりを持てば誰もが必ずリソースフルになるわけではありません。ゆとり教育でリソースフルになった子もいる一方で、ただ空いた時間を持て余してしまっただけの子もいる。私は、目的論の観点が欠けていると思うんです。教育の場で今、必要なのは、もっとアクティブに相手をリソースフルにしていく働きかけではないでしょうか。アドラーの言葉で言えば、勇気がある、勇気が湧いている状態にしていく教育です。

【前野】明らかにそちらに向かっていると思いますね。

【平本】ですから、原因論がダメなのではなく、原因論で関わることによってアンリソースフルになるのがダメなんです。そして目的論で、強化してほしいところを指摘する関わり方だと、リソースフルになりながらリソースも高めることができるんです。

「駆け込み乗車はおやめください」は原因論

【平本】スポーツ心理学では「緊張しすぎても、リラックスしすぎても、パフォーマンスは低くなる」と言われます。だから、あまりにもダラケた相手には原因論で厳しく関わったほうが、緊張感が増してパフォーマンスが上がる。でも、過緊張状態になっている人に「ここがダメだ」「あれを直せ」と指摘すれば、余計に緊張が高まってパフォーマンスは落ちる。アドラー的に言えば、悪いところに意識が向いて、そこが強化されてしまうからです。

【前野】そうなりますね。

【平本】駅のホームで「駆け込み乗車はおやめください」というアナウンスが流れることがありますよね。ダメ出しをする原因論的なメッセージですが、あれを聞くととっさに走り出す人がいる。何を隠そう私もその1人で、とくに急いでもいないのに、反射的に汗だくで電車に飛び乗ってしまった経験が何度かあります(笑)。

【前野】ははは。