ウォルトが引き抜いた唯一の「遊園地経験者」
プライスは、伝統的な遊園地の業績も算出したのだが、その結果は残念なものだった。「入場者の平均滞在時間は2時間30分、平均支出額は1ドル50セントだった」
サンフランシスコのホイットニーズ・プレイランドは、さほど大きくない遊園地で、ウォルトは最初、大して気に留めていなかったが、訪れてみると多くの収穫があった。オーナーのジョージ・ホイットニーは活気あふれる起業家で、ウォルトは彼と面会を予定していた。だが、ホイットニー自身は多忙のためウォルトと会う時間がなく、代わりに息子のジョージ・K・ホイットニー・ジュニアが案内役を務めた。
ウォルトは、遊園地によくある乗り物に興味はなかったが、ホイットニー・ジュニアのビジネスに対する理解力と、入場者をどう動かし、喜ばせ、満腹にさせているか、その簡潔で明快な説明にいたく感心した。それまでは「遊園地の関係者は雇いたくない」と言っていたウォルトだったが、プレイランドからホイットニー・ジュニアを引き抜き、ディズニーランドの乗り物の運営監督を任せたのだった。彼はディズニーランドの7番目の従業員であり、遊園地での職務経験がある唯一の人間だった。
数字的指針は「自分たちで考案するしかなかった」
プライスは数週間にわたる調査を、こう総括している。「われわれは、モデルを見つけ、現在考案中の遊園地における数字的な指針を適切に見極めるために、全米各地の娯楽施設、さらにはコペンハーゲンのチボリ公園(庭園と遊園地)を訪れた。そして、入場者数のピークや季節変動、ひとりあたりの支出額、群衆の密度、入場者数に対応できるアトラクションの定員、投資水準などを調査した。当時は、そうした項目には呼び名もなく、自分たちで考案するしかなかった」
考案、という言葉をプライスは2度用いているが、どちらにも意図がある。ディズニーランドの運営は、群衆の流れを読み、経済の予測を行い、建築上の問題を解決するだけでは不十分なのだ。これまでに実例のない試みであり、ライト兄弟が初めて空を飛んだときと同様、新たな発明が必要だったのだ。
アニメーターのハーバート・ライマンが説得力のある完成予想図を必死に描いているとき、脚本家ビル・ウォルシュは、そこに添える、現在のビジネス用語では「ミッション・ステートメント」と呼ばれるものをひねり出していた。
感動的な口調で、ディズニーランドが既存の遊園地——ベニヤ板の骸骨が暗闇でライトアップされ、バンパー・カーがやみくもにぶつかり合い、(倒せるはずのない)木のミルク瓶の山を客に倒させようとするような遊園地——とはまったく違うものであると宣言したのだ。