電車内での事件が相次ぐ中、乗客の不安を軽減するにはどうしたらいいか。弁護士の小島好己さんは「無差別事件が起きても鉄道会社に責任を負わせるのは難しい。AI犯罪予測システムや手荷物検査といった有効性のある防犯対策の導入を前向きに検討すべきだろう」という――。
電車に乗り降りする人々
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他人と接触する列車内でも安心感があった理由

2021年、小田急電鉄、京王電鉄など、列車内での無差別事件が続いた。日常的に鉄道を利用する者としては他人事ではない。

列車での移動時間は一日のなかで貴重な息抜きの時間でもある。列車に乗って車内を見回すと、一人もしくは二人、あるいはグループで思い思いの時間をゆるんだ顔や姿勢で過ごしている乗客が多い。私自身もスマホで何かやったり、本を読んだり、熟睡したり、ぼーっとすることが多い。

列車内は他人と接触する場所だから乗車時に全く無防備になるというわけにはいかないはずだが、他人に対する妙な信頼感と、日本の鉄道会社に対する絶大な信頼感があるのか、車内に漂う空気は張り詰めた緊張感というよりものどかでゆったりとした安心感である。

そのような中での無差別事件の連発である。自社の列車内で発生した無差別事件について鉄道会社が負う責任や方策はあるのか。乗客はどう対応するべきか。

鉄道会社には「乗客を安全に運ぶ義務」がある

鉄道会社は乗客を乗車駅から下車駅まで運送し対価としての運賃を得る。運賃は運送する区間の対価だから、鉄道会社としては乗客を運送しさえすれば自らが行うべき運送の主たる義務は果たす。

しかし、ただ単に乗客を運送すればよいということではない。安全な運送が担保できない可能性がある車両を運転することはできないし、脱線する危険があるような線路で列車を運転することも許されない(鉄道に関する技術上の基準を定める省令等)。

鉄道事業を規律する鉄道事業法は鉄道輸送の安全を確保することを目的の一つとしており(第1条)、鉄道事業法第18条の2にも「鉄道事業者は、輸送の安全の確保が最も重要であることを自覚し、絶えず輸送の安全性の向上に努めなければならない」と規定されている。

この鉄道事業法第18条の2は、2005年の福知山線列車事故など人的ミスを起因とする鉄道事故が多発したことを受けて鉄道事業法に付記された規定であるが、単に運送をするだけではなく、旅客に対する安全確保の義務を鉄道会社は負っているということを示す一例である。わざわざ券売機や改札口で「お客様を安全に運送します」と約束をしていなくても、鉄道会社は運送契約上当然に乗客を安全に運送する義務を負っている。