日本の格差は、アメリカから見れば誤差の範囲みたいなものだ。日本ではアルバイトでも月に20万円弱ぐらいは稼げるし、夫婦なら30万〜40万円近くになる。餓死する人はほとんどいなくて、貯金ができるほどだ。年金、生活保護などの社会保障も日本は手厚い。

給料明細
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問題は所得格差ではなく、働く人たちの収入が全体的に少ないことなのだ。

日本の初任給はこの30年間、24万円前後でほぼ横ばいだ。その間に欧米では3倍ほどになっている。日本はこの30年間、GDPが増えていない。分配する富が創出できないことのほうが問題なのだ。

肝心の成長について、岸田首相はノーアイデアだとしか思えない。研究開発に少し投資したところで、成果が出るのは30年先になる。特に、政府主導で10兆円規模の「大学ファンド」を設立するというが、実態を知らない恐ろしい無駄遣いだ。日本で800社以上の起業を手伝ってきた私の経験から言えば、大学に資金を投資するよりも、10人くらいのシリアルアントレプレナー(連続起業家)に100億円ずつ投資したほうが結果を出すだろう。

転職しないから所得が上がらない

IT技術者は、海外では給料が高い職業だが、日本では初任給が24万円前後と他職種と変わらない。中国はじめ世界のIT業界では、給料が安い日本の技術者を雇うのが最も得だと言われている。

インドのIT技術者は、20代で年収1600万円も珍しくないから、日本とは5倍の開きがある。インド工科大学は23校あって、IT技術者も数多くいる。日本からバンガロールなどに採用担当者を派遣しても、日本企業に就職したがる技術者はほとんどいない。世界中から年収1600万円で声をかけられるのだから当然だ。

しかも、日本の採用担当者は「年収300万円だけど、ライフタイム・エンプロイメントで、毎年のように昇進昇格するよ」と勧誘する。インドのIT技術者が、終身雇用を望んでいると勘違いしているのだ。世界のIT技術者は、転職を繰り返して出世していく。終身雇用に魅力を感じるわけがない。

IT業界に限らず、日本では就職や転職の考え方が、世界標準からズレている。より高い給料を求めて業種を超えて転職するという発想がない。日本の給料が安い原因の1つだ。

日本で平均年収が高い企業といえば、キーエンスが筆頭にあがる。過去5年の平均は2000万円に近い。しかし、キーエンスに転職希望者が殺到しているという話は聞かない。