街を歩く途中、突然女優の声で話しかけられて立ち止まる――このように音を出す広告(サウンドサイネージ)などによる販促手法をサウンドマーチャンダイジング(SMD)と呼ぶ。
日本人は音に「涼しさ」を感じるほど聴覚には敏感。
今年2月、ヤマハはポスター状になるTLFスピーカーを用いて、「アサヒ十六茶」の交通広告を都内で展開した。一見普通のポスターだが、近づくとCMの音声が流れるという仕組みだ。
店舗などでBGMに工夫をこらすこともSMDの一つだ。有楽町マルイでは、場所・時間帯ごとで環境に合わせたBGMを東京芸術大・音楽環境創造科が制作している。SMDは他の視覚的なMDと比較すると、音を変えるだけで効果が出るという点で割安でもある。
音環境コンサルタントの齋藤寛氏は、「音は目に見えないだけに、軽視されがちですが、最近は音と感情、脳に関する研究が急速に進んでおり、人の感情を動かすのは確実であることがわかっています」と話す。
「音」の価値は、文化的にも見直されつつある。1960年代末、カナダの作曲家であるマリー・シェーファーは「サウンドスケープ(音風景。ランドスケープからの造語)」という概念を提唱。サウンドスケープを「視覚中心の西洋近代文明に対する反省と聴覚文化復権の試み」としている。日本でも、96年に「残したい日本の音風景100選」(環境省)が選定され、オホーツク海の流氷や京丹後市の琴引浜の鳴き砂などが“音風景”として採用された。
かつて日本人は鐘の音で時刻を知り、虫の音で季節を知った。音への回帰は、自然な流れなのかもしれない。
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