※本稿は、藤原和博『60歳からの教科書』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
夫婦関係を「他人同士」として捉え直す
私は「夫婦」も60代になったら、「身内」ではなく、「他者同士」として関係を捉え直したほうがいいと思っています。
身内同士の関係には、次の3通りがあります。
1 肩車型の関係
2 おんぶに抱っこする関係
3 抱き合う関係
肩車やおんぶに抱っこは、お父さんやお母さんが赤ちゃんや幼児に向き合うときの関係です。抱き合う姿勢は、愛し合う夫婦の関係と言えるでしょう。
愛情に基づく家族だからこその関係性ですが、社会的な営為である仕事においては、このような関係性は長持ちしませんし、トラブルの原因ともなります。これらは、身内だからこそ許される、親密で安心感が得られる関係性ですね。
一方で私は、成熟社会の「家族」関係は「身内」を超えて「他者」としてもつながるべきではないかと考えています。「他人」という意味での「他者」ではなく、「ベクトルの和」を求める「他者」としての関係を築くことが大切だと思うからです。
相手に「正解」を求める結婚は幸せになれない
たとえば、「結婚」について考えてみましょう。
個人的な経験や知人を見てきた経験からも、あらゆる結婚は、相手に「正解」を求めるとお互いに幸せになれない、と言い切れます。なぜなら、巡り会ったときには「最高の伴侶だ」と感じた相手も、結婚すれば毎日少しずつ、そして必ず変化していくからです。
相手だけでなく、自分自身も必ず変化していきます。付き合い始めて3年ぐらいでは見えなかった変化が、10年、20年と経てば自然に目に見えてきます。
さらに夫婦の間に子どもができると、関係性は大きく変わります。そうした変化する2人が、親密に抱き合う関係からベクトル合わせを行っていく関係へと変化していくのが、結婚生活の実態なのです。
人間は一人でいると、他者から受ける刺激がない分、成長のスピードが鈍化します。
もしかすると人類は、あえて困難が多く発生する結婚というシステムを採用することで、人間が異質な他者とのベクトル合わせにチャレンジし続ける道を選択したのかもしれません。自由が大幅に制限されても、結婚という「無限のベクトル合わせ」を続けることで、人は人間的に成長することができます。