はじめに「絵描きは食えない」を変えたい――700以上のご縁
本書は現役プロ画家の僕が、「日本の芸術界(以下、業界)の現状」「業界で生きるために必要なこと」「これからの芸術とビジネスの在り方」についてまとめたものです。
新型コロナウイルス感染症が流行する前、僕は街にキャンバスを持ち出して、外で絵を描くライブペインティングを行っていました。
「プロ画家が絵を描く姿」を一般の人に見てもらい、芸術の敷居を下げるためです。画家のリアルを見せることで、一人でも多くの人に芸術に関心を持ってもらいたい。本書は、芸術の評論家や美大の教授が書く美術書とは一線を画し、芸術になんとなく興味がある人にも理解できるように、できるだけわかりやすい言葉を選んでいます。
海外で活躍する日本人のアーティストも増える中、僕は国内にとどまり、日本の業界のリアルを内側から目撃し続けてきました。国内で活動する現役画家だからこそ見えている、日本の業界のリアルを綴っています。
「絵描きは食えない」は言いわけ
画家はいまや、絶滅危惧種です。
日本でプロ画家として生計を立てている人は、30人から50人といわれます。
なぜ、これほどまでにプロ画家が少ないのか。
原因は、「業界の構造上の問題」と「刷り込み」です。
本書で詳しくふれますが、業界の構造上、絵が売れたとしても画家の取り分は、たった3割。これでは、いくら頑張って描いても、画家として生計を立てていくのは難しい。僕はそういう業界をなんとか変えたいと模索し、行動に移してきました。
「刷り込み」もあります。
僕の美大生時代、教授でさえ「絵描きは食えない」と言っていました。
聞いている学生は「絵描きは食えない」と思い込みます。
絵を売るギャラリスト(画商)も「絵描きで食っていくのは難しい」と若手画家を脅かします。
世の中も、「絵描きって食えないんだってね」と言い始めます。
その結果、若手画家は「絵で食えないのは自分のせいじゃない」と考え、教授は「プロの画家が育たないのは自分のせいじゃない」と考え、ギャラリストは「絵が売れないのはギャラリストの営業力のせいではない」と考えるようになる悪循環に陥っているように感じます。
「プロでやるのはどんな仕事も難しい」というだけなのに、業界全体が「画家は食えない」を言い訳に使ってきたと感じます。
人は「できない」と思っているうちはできませんが、「できる」と思った瞬間に脳のセッティングが変わって、できるようになる。「絵描きは食っていける」と思えば、前向きになり、できる方向に向かって歩いていくことができます。
プロになるのは難しさもあるけれど、「成功例」もある。それを僕自身が証明し、業界を目指す人を増やしたい、とこれまでやってきました。
言うまでもなく、お金がすべてではありません。ですが、経済的魅力がない業界は新規参入が滞り、人材が育たず廃れていく傾向にあります。それを変えたいのです。