それよりも私は事前に相手のことをよく調べておいて、この人がいちばん喜ぶポイントはどこにあるかを探します。好きな趣味の話を振るとか。そうすると、どんどん機嫌がよくなって、口もなめらかになる。気づいたときには、洗いざらいしゃべってしまい、後日記事を見て「ギャー!」っとなるみたいな。今でも、「あんなことを書いたのに、よく許して付き合ってくれてるよな」と感謝している人は結構います。

大事なのは「愛嬌、図々しさ、真面目さ」

——世間では、「文春砲」の生みの親でもある新谷さんって、どんなに怖い人なんだろうと思っている人がたくさんいると思うんですよ。

【新谷】らしいですね。実際に会うと意外、ってよく言われます。

——いい意味で言うのですが、意外と人間が軽いというか、愛嬌がありますよね。

【新谷】愛嬌、大事ですよね。それと、図々しさと、真面目さ。編集者で大事なのは、この3つじゃないかな。

——図々しいと言えば、本を読んでいると、よく言えるな、と感心してしまうシーンがいくつもありました。ドキュメンタリードラマ『直撃せよ!』では、経歴を詐称していたショーンKさんをインタビューしているとき、約束の時間を過ぎているからと取材を終わらせようとする広報担当者に向かって、新谷さんが「ショーンさんは自分の人生をかけてしゃべっているんだ!」と押し返していました。暴かれている側が、まるで自らの意思でしゃべりにきているかのように錯覚させてしまうという……。

【新谷】あのシーンは、かなり事実に即しています。でも、冷静に考えたら、そうですよね。来ていただいているのに。あれは思い出深い取材だったなぁ。

『文藝春秋』編集長の新谷学さん
撮影=門間新弥

——前田敦子さんの「深夜のお姫様抱っこ」の様子をスクープした時も、所属事務所の偉い人に新谷さんが「あのスクープ以来、前田さんは女優としてひと皮むけたんじゃないですか」と言ったら、「あんたに言われたくない」と怒られたとか。

【新谷】あ、あれですね。あのときは怒られたなあ。

「親しき仲にもスキャンダル」の真意

——ただ、新谷さんの中にも「武士の情け」はあるんですね。当時自民党副総裁だった山崎拓さんの女性スキャンダルを『週刊文春』が報じましたが、議員辞職後も、女性がらみの問題で記者から追いかけられていた山崎さんから直接、「どこまでわしを辱めれば気が済むんや。わしは政治家を引退したんや」と電話があった。そのときは、記者に即撤収を命じたんですよね。

【新谷】もちろん、そういうときもありますよ。山拓さんとは、スキャンダル後にお付き合いが始まったんです。九州に行った帰りに焼酎をお土産に買ってきてくれたりね。「おれと同じようにこいつを討ってくれ」と頼まれたこともある。

もちろん、情は移ります。むしろ、私は情に流されやすいほうなので。でも、親しくなることが私たちの仕事ではない。心を鬼にして書かなければいけないこともある。だからこそ、そんな自分を戒めるために、いつも「親しき仲にもスキャンダル」と言い続けているわけです。