マハティール元首相が「中国人への居住権販売」に激怒

こうした中国人富裕層のマレーシア移住にレッドカードを出したのは、親日派としても知られるマハティール元首相だった。同氏は、2018年の政権交代を経て、90歳を超える長老ながら首相の座に返り咲いた。

その当時、中国の不動産デベロッパーによる、シンガポール対岸にあるジョホール州の一角で2006年に始まったタワーマンション群(現地では、コンドミニアムと呼ぶ)「フォレスト・シティ」の開発が進んでいた。総面積が1400ヘクタール弱と東京ドームの250個分の広さを持つ大規模案件で、しかも売却対象は中国大陸の富裕層だった。

当時、“爆買い”の勢いで売れていた物件に関し、中国人への訴求効果を高めるためにデベロッパーが「物件を買ったら居住権も付与します」と謳っていたことが、「家とセットで居住権を売り渡すとは許せない」と元首相の逆鱗に触れた。

「早くビザ復活を」中国側の要請は受け入れられたが…

どうもこの話は、中国大陸の物件購入者に対し、MM2Hビザの申請を促すものだったようだが、中国との関係を警戒する元首相の怒りを買って以降、ビザ発給は大幅に滞った。その後、新型コロナ感染拡大で外国との出入りをほぼゼロまで絞った影響もあり、政府は2020年8月、正式にビザ発給の停止を発表。「12月をメドに制度の見直しを図る」としていたものの、延期を繰り返し、ついには今回の規定厳格化の発表となった。

この背景には、申請者の国別割合で最も大きい中国が公式に苦情を出したことがある。マレーシア駐在の白天中国大使は2020年9月、マレーシア政府に対し「問題を抱えたMM2Hビザの発給をできるだけ早く復活してほしい」と要請していた。中国側の要請は受け入れられた格好だが、新規申請者への収入条件が4倍増になるとは思ってもみなかったのではないか。

別荘目的のビザで不動産をどんどん買い漁るように

MM2Hビザ申請の従来規定は、マレーシアの観光振興を目的に、外国人の長期滞在を促すものだ。しかも、ビザの名称のうち「M2H」とはマイセカンドホームの略とあり、制度設計上は「どこかにメインの住宅を持っている外国人が別荘目的でマレーシアに滞在する時のビザ」というのが前提と見るべきだ。

ところが、現実にはMM2Hビザを使って現地に定住している層がいる。日本人の場合「年金暮らしの退職者とか、ユーチューバーなどオンラインビジネスで稼ぐ人とかが多い」(M子さん)。他にも、子女への教育目的で母国の家族から仕送りを受けている親子、あるいはマレーシアが英連邦の国という縁からか、「ロンドンの自宅を売っぱらってペナンに来た」という英国人リタイア組もいる。