オリンピック期間も使って仕立てるスピード感

公式服装の作製責任者、本田茂喜は「時間との勝負でした」と言っている。

「オリンピックとパラリンピックの間は、約1カ月間です。オリンピック期間中もパラリンピック用の公式服装のお仕立てをしていました。数量は式典用と開会式用を合わせるとスーツ換算で、約1000着です。1着1着お仕立てするパーソナルオーダーとしては、とても厳しい戦いでした。

式典の公式服装
写真提供=AOKI
式典の公式服装

時間との勝負に勝つ解決策はチームプレーです。素材メーカー、縫製工場、補正工場、一丸となってのチームプレーでした」

本田のチームがやったことは多い。採寸、仕立てに取りかかる前に、AOKIのメンバー全員はパラリンピックの22競技すべてを知るために学ばなくてはならなかった。

障がいと言っても、さまざまな障がいの種類や程度、そして障がいに合わせたクラス分けがあると知った。

洋服への不満や要望を聞き取り、採寸に生かした

次に、障がい者にとっての洋服のあり方について理解を深めるために、AOKIに勤務している障がい者雇用の社員に洋服に対する不満や要望をインタビューしたのである。それを公式服装のデザイン、採寸に生かしていった。

ブティック店でハンガーに男性のスーツ
写真=iStock.com/Alexey Strelkov
※写真はイメージです

「パラリンピアンには立位の方、そして座位(車椅子の利用)の方がいらっしゃいます。座位の方にとっては、パンツの前側の股上は、立位の方より短い方がいい。一方、後ろの股上は、長く深い方が、座り心地、ウエスト位置の収まりがいいんです。

そして、パンツの後ろポケットはほぼ使用しませんし、ポケットの袋布が当たるので、ない方が車椅子の座り心地はいいんです。

そうやって、さまざまな障がいに合わせてデザイン、採寸、仕立てを行いました。座位と立位を併用されている選手もいらっしゃるので、そうなると、一着で両方の機能を持たせなければならない。一概に決められないんです」

本田が言ったように、AOKIは素材メーカーから補正工場まで、特別のチームで支えている。