理論偏重、現場軽視は失敗する
今、私は自分のチームに手応えを感じている。
理由の1つは、チームのまとまりだ。
今のチームは、リーダー不在と指摘されることがある。過去の代表と比べて、柱谷哲二、中田英寿のような強いメンタルを持った選手がいないとも言われる。
確かに、強烈なリーダーはこのチームにはいないかもしれない。しかし、互いに補うまとまりがあるのだ。
あるときは、闘莉王が吠えてチームを引っ張っていくこともある。別のときには、中澤佑二が黙って模範を見せることもあるだろう。また、中村俊輔が――といった具合だ。いわば、中華料理の円卓に全員が一斉に座ったとき、自然とどこかに偏らずに座ることができるような雰囲気がある。今まで、私が率いていたチームでこうした感覚を持つことができたのは初めてだ。このまとまりは、集団として目的がきちんと見えているためにできているのだろう。
10年のワールドカップ南アフリカ大会で、私はベストフォー進出を目標に掲げた。絶対に無理と嘲笑った評論家もいた。実際、選手たちも、初めてベストフォーという目標を聞いたときは戸惑っただろう。「よし、やってやろう」と本気になったのは数人だと思う。ただ、集団は、高い目標を掲げることが大切だ。
この状況は、09年9月オランダでの親善試合、ガーナ戦で劇的に変化した。
アフリカのガーナは、高い身体的能力の選手が揃う、世界の強豪国である。そのガーナに4対3で勝利。その直後10月に行われた合宿に集まってきた選手は文字通り、目の色が違っていた。多くの選手がこれから本大会までにレベルアップしていけば、ベストフォーを目指すことができると信じるようになっていた。
普段のJリーグでプレーするときも選手の意識が変わってきた。私はできる限りJリーグの試合を視察している。そのとき最も注目するのは、ボールを取られたら全力で戻るかなど、本気でチャレンジをしているかどうかという姿勢である。